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異世界に迷い込んだ女子高生14



派手な格好の茶髪のお兄さんは、薄暗いホーム端の柵に凭れ掛かっていた。



「お兄さん、タバコ買ってきましたよ!」



舎弟のごとく駆け寄ると、茶髪のお兄さんは目を丸くする。



「マジで買ってくるとは思わなかった。

まあ、ありがとな」



後ろ頭を掻きながらお兄さんはタバコを受け取り、私の手に200円を落とした。



強面の三白眼を優しげに細められると、切なくなる。



この人は、多分………………



「……これから、妹に逢いに行くところなんだよ」



また……だ。



聞いてもないのに語りだした。



「妹が生まれてすぐに両親が離婚してさ、俺は親父に、妹はお袋に引き取られた。

住所もわかんねぇから今まで会ったこと無かったんだけど、今日郵便受けに手紙が入っててさ」



お兄さんは懐からピンクの手紙を大切そうに取り出した。



「手紙は妹からだった。

俺に会いたいって書いてあってさ、ビビったよ。

住所が書いてあったから、いても立っても居られなくて、そのまま駅に来たんだ。

タバコも持たないでさ。

でも、まだ少し迷ってるんだ。

俺みたいなチンピラ崩れが会いに行っても良いのかって」



その表情は少し陰っている。



お兄さんは、ぎっしり空いた耳のピアスを不安げに触った。



「きっと喜ぶと、思いますよ……」



さっきから嫌な予感がしているせいで、少し語尾が震えてしまう。



トレンチコートの女性も、新聞を読んでいた中年男性も、身の上話をした後に消えている。



これ以上聞いたら、また……



「へへ、そうかな。

初めて会うんだよ、緊張するなぁ」



はにかむようにして笑うお兄さんの姿が、一瞬揺らいだ気がした。



だめ……………………やめて。



「ちょっと待ってください!

タバコに火をつけてくれませんか?」



「え?ああ、そうだな。

せっかく買ってきてもらったからな」



お兄さんは手紙を仕舞い、持っていたタバコの封を開けて1本咥えると、懐からライターを取りだした。



これで……………………帰れる!



――シュッ



お兄さんはライターを擦り、タバコに火をつけた。



私とお兄さんの間に、ふわりと紫煙が立ち込める。



「……ありがとな……」



瞬間、霧のようにお兄さんは消えていた。



…………目の前で、消えた。



私一人を残して。



辺りは気味が悪いほどに、しんと静まっている。



日の落ちた後の古い山里の駅のホームに、私が一人だけ佇んでいた。



お兄さんの残したタバコの紫煙が目に染みて、涙が滲む。



………………何で…………何も起こらないの。



なんで、帰れていない…………………………?



煙を出せば帰れるって、サイトに書いてあったのに。



トンネルにも入ってないし、飲み食いだってしてない、名前もノートに書いた。



何も間違ってなんかいない。



「………ねぇ……………どうして!!」



胸に迫る怒りと絶望を、我慢できずに叫んでいた。



なんで私だけ帰れないの?



ど う し て 私 だ け 、 こ ん な 目 に !



心臓がドクドクと煩く、頭が酷く痛む。



頭の中で、気持ちの悪い不協和音が鳴り響いているような感覚に陥っていた。



「…………………………帰りたい」



辺りはしんと静まり返り、人は誰も居ない。



祈るように目を瞑って開けてを繰り返しても、日の落ちた暗い無人のホームだけが広がっていた。



これから、どうすれば…………………………



解決の糸口を失ってしまった。



出口の無い世界に閉じ込められてしまったかのような、言い様のない不安感が駆け巡る。



助けて………………



さっきまでお兄さんがいた柵に手を付いて、力なく項垂れた。



完全に日が落ちきって、辺りは濃密な闇に包まれていく。



闇夜の中を流れゆく雲間の切れ目から、月明かりが頼りなく差していた。


次回、登場人物紹介(沙羅)&次話投稿します。

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