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また勇者が転生してきたけど、もう魔王はいない。  作者: 美木 紀宏
第五章 上の戦い
33/41

33. 勝手に人のことを知ったかして、ケラケラ笑ってんのがムカつくって言ってんの!

「こ、これは……」


 プラノとエックスは、同じ一点を見つめ茫然(ぼうぜん)としている。


「ぬぬぬぬぬ……なんの、これしきっ!」


 魔力を放つ者を吸い込むダークホール。その中に吸い込まれたはずのサヤの顔だけが飛び出し、歯を食いしばるように浮かびあがっている。


「ククク、ミラーソードは落ちていない。本当の力を見せてみな!」


 ミラーソードがふらふらと浮いたり下がったりを繰り返している。追い詰める側のジュリーは、期待のまなざしを向けている。


「エックスくん! 一体何が起きていますの?」

「分からないし。ダークホールは強力な封印魔法。取り込まれかけてから自力で出ようとする人なんて見たことない」

「絶対的な闇の封印をも無効化する力――ドラゴンの腕を切断し、魔王の防御さえも貫く力さ」

「まさか、金の魔法ですの!」

「アタイはこの娘の戦いを全てモニタリングしてきた。タクミほど使いこなせていないけど、使えてしまっている」

「『使えてしまっている』? 無意識で使えるということですの?」

「言葉にすればそうなるけれど、人間の表現じゃ足りないねぇ。次元が違うのさ」

「煮え切らない話だし。結局、サヤは何がすごいの?」

「『過度な優しさは人を甘やかし、成長を遅らせる』。見てれば分かるさ」

「このくらいで……私は負けない! もっとツラいことが……今までたくさんあったから!」


 苦悶(くもん)の表情の顔が叫ぶと、空間の境い目をピンクセーターの袖から指だけが出た両手が、空間の境目をがっちりと掴んだ。そして首元の赤いチェック柄のリボンから上半身、赤チェックのスカートから紺のハイソックス、最後に茶色のローファーの両足を空間の境目にかけて立った。


「はぁあ!」


 サヤがダークホールを一喝するように声を出すと、金の光が闇の穴を塞いでかき消した。そして、風魔法を使いゆっくりと二階に着地した。


「ククク……アッハッハ! 金の無効化の力! 素晴らしいじゃないか!」


 ジュリーは額に手を当てて喜んでいる。


「……ムカつく」

「……何だい? その口の聞き方は?」


 両者の目付きが変わり、睨み合いが始まった。まるで勇者と魔王の戦いを彷彿(ほうふつ)させるような迫力がある。


「私の方が年下だし、上から目線になるのは仕方ないかもしれない。だけど、私の魔力しか見てないじゃん! 勝手に人のことを知ったかして、ケラケラ笑ってんのがムカつくって言ってんの!」

「言葉に気を付けな。アタイはバルクと違って気が短い。アンタを本気で消すことだってすぐにできるんだよ?」


 ジュリーはみるみるうちに怒りの表情となり、杖を掴む手に力が入り始めた。


「だったら何で消さないの? 炎のコンボもほら穴魔法も、トドメの魔法を撃てば決着がつけられたはず。でもそれをしないってことは、私の力を探りたいだけなんでしょ?」

「生意気な娘だね! だったら終わりにしてやろうじゃないか!」


 ジュリーは杖を掲げた。


「グラウンドキッス!」

「うっ……オネエ幹部と同じ魔法……それよりも重い!」


 サヤはうつぶせ状態になり、屋根がミシミシと音が鳴った。キュロストストーンの効果がなければ建物を貫通して落下しているほどの重力感だ。


「異界とつながるワームホールよ! 境界を越え、盟約を交わした戦友を導きたまえ! 罪深き魂をも焼き払う魔界群青炎(ぐんじょうほのお)の化身! ()でよ、アザヴァルド!」

「ケケー! ウィヒヒヒーン!」


 複雑な古代文字がちりばめられた群青(ぐんじょう)色の魔法陣から、四足歩行の動物を(かたど)る青い炎の生き物が召喚された。全身がメラメラと燃えていて、縦長の頭に長くて立派な青い角が二本生えている。


「か、カッコいい! トナカイみたい!」

「感心してる場合じゃないですの! アザヴァルドは一国を焼失させるほどの力がありますわ!」

「かの者を魂ごと焼き払え! グラウンドブレイズ!」

「バフォーン!」


 アザヴァルドは飛び上がりながら、サヤへ向けて相当量の青い炎を吐いた。


「くっ!」

「ヤバいし! うつぶせから避けるのは間に合わない!」


 青い炎は一瞬で辺りの屋上を火の海に変えた。ジュリーやプラノたち、ギャラリーや近くで戦っていた戦士たちも回避に回った。


「サヤ!」

「む、無理だし。こんな魔法を受けてミラーソードを操れるわけが――!」

「なに!」


 急にジュリーの背後からミラーソードが現れて杖を弾いた。クルクルと音をたてて杖が落下し、ジュリーが初めて焦りの表情を見せた。


「私をちゃんと見てないから、気が付かないんだよ!」


 金の光を全身にまとったサヤが、青い炎の中から空へ浮かび上がってきた。


「ちぃ!」


 杖を追ったジュリーは急加速し、身体ごと炎の中に入った。


「……そこまでして、勝ちたいのかな?」

「――そりゃ勝ちたいさ! しかも、あれはアタイじゃないよ!」


 サヤよりもはるか上空からの声。声が聞こえたのとほぼ同時くらいに、空が赤く染まった。一行が見上げると、両手で杖を掲げたジュリーが巨大な火炎玉を放とうとしていた。


「なんで! ジュリーさんの魔力も感じたし、声も出してたし、杖に当たった音もちゃんとしたのに!」

「あれはアタイの分身、魔力を吹き込んだ幻影さ! この魔法は詠唱が長いからねぇ。召喚獣と分身を(おとり)にさせてもらったよ!」

「魔界の召喚獣よりも強大な火の最上級魔法なんて、贅沢(ぜいたく)なコンボだし」

「……とんでもない魔力。こんなにすごい魔女がいるんだね」

「こんなに本気を出したのは魔王戦以来さ。だけど、アタイに勝つのは十年早いね! シューティングデイスター!」


 巨大な火の玉が、太陽のフレアのような爆発を起こしながらサヤへ向かってきた。


(ククク! 勝った!)

「……」

(町はキュロストストーンの力でだいじょうぶ。トナカイさんの炎でも燃えなかった。問題は私とミラーソード。遠くまで転移魔法が使えないのを見抜かれてて、この大きさじゃ避けきれない。同じ魔法で対抗したいけど、詠唱の言葉を聞けてない。どうしよう……)

「サヤ!」


 キュロストアレーナの方向から、聞き慣れた男の声がサヤの名前を呼んだ。


「大きさに惑わされんな! 自分の中で、一番自信がある魔法を全力でぶつけろ!」

「私の中で、一番自信がある魔法……」

「どうあがいても無駄さ! 火球が爆発すれば終わりだよ!」


 サヤは金の膜をまといながら、巨大な火球に両手で触れた。押し返そうとするが全く歯が立たず、そのまま屋根に向かって押し返される。


「はぁあー!」


 サヤが強く念じると全身を金の柱が包み、火球に刺さり込んだ。そしてついに、巨大な火球を貫通した。


「女子の反抗期を、なめるなぁああああー!」

「こ、これは!……」


 爆発しかかった巨大火球を、金の柱が一気に包み込んだ。バルクとジュリーの脳裏にラベラタの裏山での記憶が浮かんだが、当時よりも遥かに大きな柱だった。


「はぁ、はぁ……」


 サヤは力を使い果たし、膝をついた。辺りの魔法が全て消えた。


「……や、やったよサヤ! まだ勝負はついてないし!」

「いえ、勝負は決しましたわ」

「え?」


 エックスが落胆しているプラノの視線をたどると、ミラーソードが横たわっていた。


「金の柱はよかったけど、ミラーソードの制御はできなかったみたいだねぇ?」


 勝利した魔女が嬉しそうに、二階へ降りてきた。


「しかしキュロストじゃなかったら、まだ勝負はついていない。まったく、火属性の最上級魔法まで無効化するなんて、危険な小娘だねぇ」

「――気が済んだか? ジュリー」


 バルクとイルが四人のもとへ歩み寄ると、ジュリーは満面の笑みを見せた。


「イル、そっちはどうだい?」

「……臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の極みに惜敗(せきはい)

「なんだい、負けたのかい? こっちは粗削りだけど、あと一週間あれば間に合うさ」

順風満帆(じゅんぷうまんぱん)。機は熟した」

「『間に合う』? 『機は熟した』? 何の話だ?」

「魔王の完全復活まで、あと一週間なのさ」

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