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第6節 別れ


全てが終わった時、光介は考えた。


これからの未来ことだ。


一つは、マテリアとともに、伯国へ戻り、彼女の治世を騎士として、そして(もし彼女が許すなら)何より大切な家族として見守り、支え続ける。


魔族と人間の違いを乗り越えられるかは分らないが、そんなことはどうでもいい。


もう一つは、瑠璃とともに、元の世界へ戻る。


同じ人間の彼女に音のある世界をプレゼントするためなら、何でも出来る気がする。


そして、今の自分なら全く何もない環境でも、一から生活を作って行く自信がある。


それがゴートの望みであり、夢だった。






光介に迷いはなかった。


考えるまでもない。






・・・・・・




 ゲートの前には、瑠璃を伴って、青銀の指輪を二つ付けた青年がやって来た。


瑠璃はマテリアに何も言えず、ただただ済まなそうにしている。


何を言っても自分がマテリアから彼を奪ったのは事実だ。


何もいうまい。


そう思う彼女の気持ちをマテリアはなんとなくわかった。


もし、自分が逆の立場だったら、同じようにするしかないだろう。


青年がマテリアの前に来て、優しく語りかける。




「マテリアごめんよ。


《俺》には君を幸せにすることはできない。


君は魔族、俺は人間、いつか君を一人にしてしまう。


それに何よりも俺は瑠璃が好きになってしまった。


君のことは忘れない。


そして、君は《俺》のことも、この青銀の魔法と指輪も忘れて欲しい・・・・・・じゃあ、元気で・・・・・・」


そういうと、瑠璃と手をつなぎ、ゲートの向こうに消えて行った。




マテリアには分っていた。


種族も違うし、住んでいた世界も違う。


所詮妹のように可愛そうだから、一緒に居てくれたんだろう。


少なくとも最初のうちは。


ただ、本当の家族だった。


それは間違いない。


彼が幸せになるんなら、それが家族として最後の仕事だ。


頬の上を涙が流れ続ける。


それでも、それでもマテリアはつらくて、どうしようも無くて、もう消えてしまったゲートの前で、何時間も立ち尽くしていた。






マテリアは家に帰って、もうまる五日も何もしていない。


伯爵が食事のたびに甲斐甲斐しく世話してくれて、いろいろ話をしてくれるのだが、ほとんど頭に入らなかった。


そして、突然泣き出して、彼の胸で泣いた。


そして、また黙って遠い目をしていたりを繰り返していた。


そんなマテリアを見て、伯爵は「もうがまんならん」という顔で、立ちあがったかと思うと「いやいや」と言いながら、また席についたりしている。


そして、夜になると帰っていった。




マテリアはベッドに横になって、夢の世界の訪れを待ち続ける。






 ドアがバンッと、勢いよく開いた。


こんな開け方は光介みたいだ。




「おかえり」


つい、いつもの癖でマテリアは返事をする。




「ただいま。


前と同じ彫金がやっとできてね。


それまで、びっくりさせようと思って、鍛冶屋のマスターのところに、とじこもっていたんだ。


見てこれ、あの指輪と同じデザインだよ。


しかも、こっちの方が綺麗だろう?俺の自信作だ。


へへ・・・・・・あれ?どうしたのマテリア?何、泣いてるの?俺がいなくて寂しかったとか?そんなマテリアに、はい、これはプレゼントだよ!」


そういうと光介は、マテリアの左手の薬指に指輪をはめた。


光介の手にも同じ指輪がある。


光介は照れ臭そうにしている。




マテリアの前に、ゲートをくぐって二度と会えないはずの光介がいる。


光介は真剣な面持ちになって言う。




「マテリア、俺は君のために生きる。


君も俺のために生きてくれないだろうか?そうしたら、『君を一生幸せにする』、なんて約束はできないけれど・・・・・・、そう、少なくとも俺は間違いなく幸せだから。


一緒にまた家で暮らそう。


そして、もし僕と君の子供ができたら、二人でいる以上に楽しいと思うんだ。


その、もし俺が死んでしまっても・・・・・・。


だからそんな家族をつくろう。」




マテリアは、言葉が出ない自分がもどかしかった。


ただ、泣きつづけ、光介の胸に抱きつく。


(後で、これまでで、いちばん怒ってやろう、お説教だ。


そして、買い物に付き合わせよう。


たまには食事も作ってもらおう。


何からいいつけようか?でも今はこうしていたい・・・・・・)




ゲートが開く前に、光介はおそらく最後になる青銀の魔法を使った。


ゴートは何も言わなかった。


そして、光介から指輪を受け取ると大きくハイタッチした後、何も言わず、そして振り向きもせずに立ち去った。


光介とゴートには、考えがあったのだ。


自分の指輪が100%の存在でそれをゴートに与えてしまえば、ゴートは完全になる。


二度と指輪に帰還することも無い。


あいつの人生は俺と完全に分岐する。


きっと瑠璃と幸せになるだろう。


そして、この後自分はこの世界に残る。


青銀の魔法は二度と使えない。


だけど、なんの後悔もない。


マテリアや伯爵とともに生きる。


彼らより短命なのは分っている。


別れは来るだろう。


しかしそれまでの時間をきっと大切にすることができる。


後悔だけはしないつもりだ。


自分の生き方はこれから決めればいい。


どっちにしろ、幸せな未来しか想像できないけれども。









ここまでで第一部は完結です。

みて頂いて、大変ありがとうございます!

次回は、第二部 奈落編 として6章が始まります。


二部予告


奈落に住む領民達は、滅亡に瀕していた。水銀の王を使い地上への突破口を開こうとした奈落の王は失敗した。何百万人もいる彼等を見捨てることなどできない。その中には自分の愛する人もいる…

残された道は、異世界への道を開くのみ。それは容易くできるはずだ。なぜなら魔法の源である鉱物や宝石は何処にあるのか?

その9割以上は眠っている。この奈落の底で。


一方、ゲートを開いて現実世界に行った二人と残った二人。それぞれのその後は?


こんな感じの内容の予定です。

よかったら、応援してください!




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