第4節 その2 奈落の巨人
反乱軍も帝国軍もすべての王候、兵士たちが、呆然としている。
這い上がって穴から出てこようとする奈落の巨人は、もう上半身は出て、あの忌まわしい翼を開こうとしている。
飛ばれたら、あっという間に、ここまで来るだろう。
ゴールディーの攻撃で、当面の標的が見つかったのだから。
しかし、光介には考えがあった。
もともとどうにかしたいと思っていたことがヒントになった。
あの頭上にある邪魔くさい《偽りの月》をあいつに落としてやる。
そう言った光介を皆呆然とみていたが、光介は本気だった。
瑠璃に反乱軍の法具を奪って来て欲しいという指示を出した。
放心状態の反乱軍と王候は呆然としており、瑠璃のガーデンであっという間に拘束された。
そして、トパーズ、プラチナのオリジナルを光介に渡すと、それを装備した光介は、さらにマテリアを呼ぶと銅の杖を借りる。
そして、青銀の指輪を使い、ゴートを呼び出すと同時に、シルバーブレスレットを使い、自分自身を分裂させる。
「マルチプリケーション!!!」
1万のゴートはそれぞれオリジナル程ではないが、それに近い能力を保持している。
まず全員で《偽りの月》を銅の杖に着けたトパーズで操作する。
目標はもちろん奈落の巨人だ。
そして、次に、その銅の杖を大きく振う。
「ウェイトアップ!!!!!」
光介の叫び声とともに、偽りの月が落下し出した。
しかし、まだ全然落ちてこない。
あんなスピードでは、夜になってしまう。
予想していたとおりなのか、構わず光介はプラチナのオリジナルロッドを逆の手で振り下ろし、叫ぶ。
「落ちろおおおおおおおおお!!!!!!!!」
1万のプラチナロッドが偽りの月の落下を加速させる。
巨大な月が堕ちる。
空全体に響き渡る轟音を上げ、その巨大の星のかけらが、どんどん加速して、奈落の巨人に上に落ちる。
巨人は悲鳴を上げて押しつぶされる。
巨大な穴は、偽り月によって塞がれた。
激しい衝撃で、地面が揺れる。
巨大地震のようだ。
人々は立っていられず、倒れる。
建物もいくつかが崩れ落ち、この帝城の中も天井から落盤があちらこちらで起きている。
「!!!」
ゴートが瑠璃を突き飛ばす。
瑠璃は間一髪で助かった。
しかし、ゴートは落盤の下敷きになってしまった。
今のゴートは100%の実体。
痛みもあれば、恐怖心も光介と全く同じはずだ。
それにもかかわらず、なんの躊躇もなく瑠璃をかばった。
光介はゴートの本当の勇気に敬意を払った。
結局自分はあいつに勝てなかった。
でも今はそんな事をくよくよ考えている時ではない。
(別にそれでいいじゃないか・・・・・・。
それより今はあいつのかわりに二人を守るんだ。)
光介は瑠璃とマテリアを天井のない場所まで引っ張り出す。
瑠璃はゴートがいたであろう場所に向かって叫んでいるが、世界中に鳴り響く大音響がその声を消している。
青銀の師団も消え去っていった・・・・・・。
地震と大音響そして津波が治まった頃。
光介は勝利を、戦いが終わったことにやっと気が付いた。
その手をマテリアがきつく握りしめていた。




