第1節 その1 新・人魔大戦
伯爵は、そのナイフのような鋭い指先を公爵の後頭部へ突きいれた。
ズブリと音がして、その銀色に光る切っ先が小さな光るかけらを取り出した。
それは人を操るための金属片らしく、受信機の働きをして、公爵を操っていたらしい。
目を覚ました公爵に話を聞くと、どうやら七~八年前から記憶がないという。
そして、正気を取り戻した公爵は語り出した。
恐るべき帝国の状況を・・・・・・・
この大陸の大部分は、4つの国とそれを治める皇帝が直接統治する帝都からなるミラネル帝国が占めている。
この帝国は魔族と人間が共存できるためにと建国された。
約1000年前の事である。
この大陸は大きな正三角形のような形をしており、その内接円を描くように山脈や渓谷が国を分かち内接円の内側がミラネル帝国になっている。
ミラネル帝国内は、五つに分かれており、西のプラチナ候(魔族)、北の黒鉄候(魔族)、東のサファイア候(人間)、南のルビー候(人間)が各候国を治め、この世界の最大の都市である中央の帝都には、魔族と人間のハーフやその子孫などが皇帝の庇護のもと暮らしていた。
帝国の外側、大陸の南東は、エメル公国と最果ての辺境にアーゲンタム伯国があり、主に魔族中心の国家を形成している。
そして、大陸の最北には、水銀の王が治める純粋魔族のみの国ハイドロゲンタム王国が、大陸南西には、トパーズ王国、さらに大陸の西方に浮かぶ島オーラム王国には黄金の王が人間のみの国として、それぞれ独立した国家として存在していた。
かつて1000年前の大戦のころより、黄金の王、トパーズの王は、人間による統治を目指し、また、水銀の王は力のある魔族による世界の統治を目指し、帝国側と争いを繰り返している。
しかし戦力は拮抗し、事実上大きな戦争はなかった。
しかし、10年程前から現在の皇帝が何者かに誘拐されて以来、大陸は戦乱状態に陥っているというのだ。
この世界の七大宝石の一つであるガーネットのオリジナルを手に入れた黄金の王ゴールディーが、トパーズ王と手を組み、宿敵であった白金候(プラチナ候)、ルビー候を打ち破ると、同じく7大宝石の一つであるアメジストを手に入れた水銀の王マーキュリーがやはり力の均衡を破り、黒鉄候フェラムを自分の配下に取り込んだ。
マーキュリーとゴールディーは本来最も相容れない存在同士だが、帝都陥落まで不戦協定中だ。
これにより、帝国の勢力は大きく後退し、丸裸になった帝都と、事実上東のサファイア候国のみが侵略を受けていない唯一の国となっていた。
マーキュリー、ゴールディー、トパーズ王、そしてフェラムの四軍の侵略に国土は荒廃し、帝国は崩壊寸前となっていた。
この戦乱の中、行方不明になった先帝の皇太子は、皇帝の証である金剛石の杖とともに皇位を継いだ。
新帝は幼いながらも、金剛石に宿る神獣を駆使して戦い、また、侵略から生き残ったルビー候とサファイア候が、それぞれの召喚獣であるレッドドラゴン、ブルードラゴンを従え、かろうじて国境を守ることで何とか領民を守っていた。
しかし、完全中立を守っていたはずのエメル公国側からマーキュリーの軍勢が襲ってきたため、そちらへの守りが手薄だった帝国をさらに追い詰める状況となった。
このまま帝国が滅びれば大陸は種族により分断される。
そうなれば、種族同士がお互いを滅ぼし合う決定的な戦争が発生することになる。憎しみはさらなる憎しみを呼び、大陸全土を巻き込んだ戦乱は果てしなく続くだろう。
そう、1000年前の大戦のように。
伯爵やエメル公国を建国した初代公爵となるエメラルドを持った女魔剣士ベリル、それにルビー、サファイア、プラチナ、鉄、銅、各オリジナルをもつ仲間たちが、魔族と人間の争いに終始譜を打ち、共存できる帝国を建国するために立ちあがり戦ったかつての大戦前に戻ってしまうのだ。
初代公爵や伯爵が作った平和なこの世界と秩序を乱してしまった自分の不甲斐なさを公爵は嘆き、伯爵に謝った。公爵のこの話に光介たちは自分たちがおかれた状況を理解しつつも、これからの戦いの大きさに頭が追いついていない。
そして、長い沈黙の後、伯爵は光介たちと公爵に話し始めた。




