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第8節 その2 ラピスラズリ

次の日、城に行く途中、俺はゴートに話しかけた。




「昨日は彼女、全く口きいてくれなかったけど、今日は大丈夫かな?」


「俺だって、まだあいつの事なんて何にもわからねーよ。


たださ、俺には目標ができたぞ。


彼女を日本に連れて帰って、治してもらうんだ。


あいつの耳は日本なら治る。


人工の鼓膜を付ければきっと聞こえるようになる。


そしたら、あいつの知らない、いろんな音や音楽を聞かせてあげたいんだ。


川の音、雨の音、虫の声、そして、世界中の音楽だ。」


遠くの方を見ながら、ゴートはそんなことを話す。




「ああ、わかった。


俺も手伝うよ。


命の恩人だからね。」


「やっと、そこに気付いたか相棒。」


「「ハハハハ!!!」」


俺たちは、そんなことを話ながらヒスイの元へ向かった。






城の客間には、ヒスイとヒスイに良く似た女性が座っていた。


髪型がショートヘアというところを除けば、本人と見分けがつかないかもしれない。




「この子は、妹のコウギョク。


今日から、男爵の爵位を継いでもらうことにしたから。


重臣たちも納得済みよ。


もちろん、私があなた達について行くためにね。」


ヒスイは決定事項として話している。


相談などするつもりもないようだ。




「コウギョクです。


いつも姉がお世話になっています。」


コウギョクと呼ばれた女の子が挨拶してきたので、俺たちも、びっくりしつつ、挨拶を返す。




「「こんにちは」」


「元々、ヒスイの名前と爵位は、この子に継いでもらうつもりだったの。


コウギョクの方が賢いしね。


翡翠自体も、ああこの間貸した短剣ね、元々この子のものなの。」


どうやら、この間借りた翡翠がつけられた宝剣がこの土地の領主の印である、オリジナルらしい。




「じゃあ、この間ヒスイが使った法具はなんだったんだ?あれはどうみてもオリジナルだろ?」


「ああ、これは《ラピスラズリ》。


私がデイサイトで見つけたの。


あのネクロマンサーが持っていた黒曜石は本来、デイサイトを治める者が持つオリジナルじゃないの。


オブジディアンはこの《ラピスラズリ》の法具が使えなかったのか、自分の城の居室に、単に飾ってあった。


だから《ラピスラズリ》を私が奪って、それを使って倒したの。


翡翠の短剣を使うまでもなかったわ。


それとこれからは瑠璃でいいわよ。


ヒスイの名はコウギョクのもの。」


「「・・・・・・」」


「じゃあ、早速行くわよ。


馬を手配してあるから。


一旦、アーゲンタム国境まで行くのかしら?それとも、このまま北側から回り込む?それはお勧めできないけどね。


あちら側は、かなりの頻度で戦争中の軍隊にでくわすらしいわよ。


大陸中央の国々がしている戦争のせいでね。


流れ矢に当たりかねないらしいの。


ラルドも多分そんな状況で南に逃げてきたというのが、実情なのじゃないかしら。」


どうやら、このエメル公国の外側も物騒な状態らしい。




「あ、ああ。


じゃあ、南から行こう。


お勧めの宿屋があるから。」


ゴートが本当のことをいう。




「じゃあ、決まりね。


それじゃ、コウギョク後はよろしくね。」


「はい。


お姉さま。


お困りの際はご連絡いただければ、出来る限りの助力をいたします。」


「ありがとう。


でもね。


街の統治は結構大変よ。


まずは、自分の足元に集中しなさい。」


「はい、お姉さま。


分りました。


ありがとうございます。


ではお気をつけて。」


「コウギョクちゃん、バイバーイ!」


ゴートが手を振ると、


「あんたは、いいの!」


お姉さまのパンチが飛んできた。




(冗談が通じるという事は、ヒスイ、いや瑠璃の機嫌も直ったのかな・・・・・・)




三人は馬で国境を越え、アーゲンタム伯国に入って直ぐの(お勧めの)宿屋で、一泊しつつ、今後の作戦を立てることにした。




「ちなみに、ここのどこがお奨めなのかしら?」早速瑠璃は、ゴートに突っ込みを入れている。




「いや、静かだろう?あとは、・・・・・・そう、安いんだ!!」


(ふたりの漫才だがコントだか分らないやりとりは、放っておこう)




食事を取った後、作戦会議を始めた、ここにきて、瑠璃には全てを正直に話すとともに、国境の骸骨兵経由で、カルスの親衛隊や、銀の師団の状況を連絡してもらった。


最初は瑠璃も驚いていたが、エメル公国の状況や伯爵の考えを聞いて、納得しているようだ。




「ただし、私は公爵家の臣下よ。


もし、公爵が正しいと分ったら、あなた達とも敵になるから。


そのつもりで。」


「いきなり、後ろから刺したりするなよな。」


「いえ、むしろ今すぐ正面から刺したいわ。」


「・・・・・・」


そんな二人の会話を聞いていると、なんだか寂しくなってくる。


(マテリアに会いたいな。


今頃どうしているだろう・・・・・・)




現状をまとめ、今後のアクションプランを以下のように立てた。




 ・銀の師団は中央都以外の北面戦線側の各都市、およびこちら側のラルド、オブジディアンの領地であった各都市の治安維持のため、すでに部隊を派遣・常駐させている。


 ・中央都には、エメル公国の軍隊である緑の師団および公爵が防衛しており、現状交戦開始にはなっていない。


 ・伯爵は、銀の師団とともに最前線に向かっており、間もなく中央都の包囲が完了する。


 ・光介たち遊撃軍の情報は全て伝わっており、合流するまで待っているので、早く来いと言っているらしい。


 ・城塞都市で、一旦装備を整え、食糧などの準備をして、最前線へ向かう。


 ・マテリアは、白銀の塔でおとなしくしているらしい。久しぶりに立ち寄る事にする。






 瑠璃も、マテリアちゃんに早く会いたいわ、なんて言っている。


マテリアは一緒に付いてくると間違いなく言うだろう。


今の俺にそれが断れるだろうか?そんなことを考えつつ、宿屋での夜は更けていった。





 次の日、城塞都市で装備や食糧を整えた後向かった白銀の塔に、マテリアはいなかった。





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