第7節 その2 オブジディアン
包帯まみれのネクロマンサーは、夜の月あかりとともに現れた。
奴のまわりには、何百ものゾンビ、それは人間だけではなく、魔族だったものもいる。
その時、後ろの衛兵二人の方から悲鳴があがった。
「ぎゃああああ!!!!」
「うあああああ!!!!」
衛兵はかなり後方にいたため、ここからでは助けが間に合わない。
気配に気づくことができなかった。
しかし、ヒスイも傍にいたはずだ、やつらの足音ぐらい聞こえなかったのか?衛兵も叫び出す前に戦っていたと思われ、戦闘をしていた形跡がある。
なぜヒスイは動かなかったのだ? いや、ヒスイは動き出した。
悲鳴を聞いた後俺たちが振り向いたときに、ヒスイは直ぐに敵を切り裂いていた。
しかし、衛兵を助けるには遅すぎたようだ。
ヒスイは部下の復讐とばかりに、猛裂に剣をふるっている。
しかし、ゾンビに通常の剣戟は利かない。
粉みじんにするまでは戦闘力を無効化できない。
そして、前方にいるネクロマンサーの軍団もこちらにせまってくる。
後方の援軍らしいゾンビの軍団も数を増している。
その数は100や200では利かない。
それを見てゴートがヒスイを助けに行く。
「お前はネクロマンサーを倒せ、後ろは俺に任せろ。」
ゴートは後方の敵を相手するという。
「スライムマンに衛兵とヒスイを助けるように言ってくれ。」
そしてゴートは雄たけびを上げて、ゾンビの群れに突っ込んでいく。
「うおおおおおおお!!!!!!!」
その銀の槍は以前とは違い、オリジナルではないながらもアクアマリンをつけている。
その槍でヒスイの傍にいるゾンビ達を薙ぎ払うと、物凄い勢いでで敵の群れが消滅していく。
それでも未だ圧倒的な数に囲まれつつあるが、ここはゴートに任せるしかない。
「出てこいスライムマン!!」
アクアマリンが光り、2メートルはあろうかという巨体のスライムマンがあらわれる。
「スライムマン、まずあの衛兵を助けてほしい。
その後はヒスイを回復してやりつつ、守ってやってくれ。」
スライムマンも後方に向かった後、俺は全力で攻撃をしかける。
「よし、こちらもいくぞおおおおおお!!!!!!!」
光介の一撃は、強烈で素早い。
その攻撃はまるで台風のようにゾンビ達を吹き飛ばしていく。
圧倒的だ。
オブジディアンもそれをみて徐々に後退していく。
みるみるうちに、敵の軍団は減っていく。
後方の敵もゴートとスライムマンがほぼ片付けた。
光介たちがあつまり、後はオブジディアンだけの状態に追い詰めた。
しかし、オブジディアンは何か呪文を唱えている。
不吉な何かだ。
このまま突っ込めば、間違いなく勝てるだろう。
しかし、何かが躊躇させる。
横からゴートが飛び出す。
「こういうときは、俺の出番だろ!相棒!」
ゴートが鋭い槍の一撃を繰り出す瞬間、
長い詠唱が終わったのか、オブジディアンが黒曜石の付いた杖を飛びかかるゴートへ向ける。
その先から、黒く光る電撃のようなものが出たかと思うと、それがゴートの心臓のあたりに、直撃した。
ゴートの動きが止まる。
「ゴート!!」
ヒスイが叫ぶ。
「スライムマン!」
俺の指示で、スライムマンが体を包み、回復を試みる。
「駄目だこりゃ、まずい。
これは死の呪文だ。
心臓が止まる。
スライムマンもういい、ヒスイを守ってくれ。」
スライムマンにも自分の能力が利かないのが分ったのか、言うとおりに、ヒスイの傍に戻る。
「ゴート!嘘でしょ!そういうのはもうしないって約束したじゃない!!」
ヒスイが叫ぶ。
「ヒスイ、ごめんよ。
でもこれが俺の大事な仕事なんだ・・・・・・。
そして、俺はこんな自分の役目がカッコイイとすら思っているんだ。
このスケープゴート(身代わり)がね・・・・、うぅ。
・・・・・・また、会える。
大丈夫だ。
コースケにきいてくれ・・・。」
ゴートは倒れる。
あいつがゴートと自分のことを言ったのはそういう意味だったのか。
ヒスイは飛び出し、オブジディアンを切り刻んでいる。
「このおおおおお!!!!!!!!!!絶対!!!ゆるさない!!!!!!!」
もう肉片すら分らないぐらいに。
さらにヒスイはネクロマンサーだったものの残骸に火をつけて、燃やしてしまった。
そして、泣き出すヒスイ。
「ヒスイさん、ゴートは生き返る。
ゴートは僕が魔法で作った分身なんだ。
だから、15分もすれば、再度召喚できる。
だから、安心して。」
ゴートの能力を知らないヒスイに声をかける。
はっ、とこちらをみるヒスイ。
しかし、その顔には怒りがあふれてくる。
「もし、そうだとしても、もし、そうだとしても、そんなことしないで!!!!最低よ。」
ヒスイは泣き出した。
空は遠くの方が白みだしていた。
夜明けが近い。
 




