第7節 その1 ラルゴ男爵
城門の前には、馬車が用意されていた。
これなら、案外と楽に南西のデイサイトまでたどり着けるだろう。
街道側から大きく東に迂回すれば、パーサイトやあの吊り橋を通らずにもいけるらしい。
俺たち3人と衛兵2人が乗る馬車の5人の小パーティーは、夜になる前にデイサイトに着くように道を急いだ。
デイサイトについたのは夜になる迄あと2~3時間という時間だった。
カタコンベの話をした時に、ヒスイには作戦があったようで、ヒスイが連れてきた2名の衛兵がその中身を馬車から運び出す。
それは、油でカタコンベを燃やしてしまおうというものである。
物騒なことをする、とゴートがヒスイに余計なことを言って、喧嘩をしているが、実はこれはとても有効な作戦だと思われた。
あの地下に眠る死体が全員動き出したら、かなりやっかいだ。
それを昼の動けない間に燃やしてしまおうというのだから、ヒスイは賢い。
しかし、カタコンベの前に全身が毛だらけの緑がかった肌色をした双頭の巨人がたっている。
前に来た時はいなかったはずだ。
俺たちが戦いを挑もうとすると、ヒスイが制止をかける。
「ここは私に任せてください。」
そういうとヒスイが飛び出していった。
「貴様、ヒスイではないか?ちょうど良いわ。
我はエメル公国の筆頭男爵ラルドなり。
貴様のような人間風情が、この私と同じ爵位などありえんわ。
その法具もろとも打ち砕いてやる。」
「どうして、そのような魔物の姿に?ラルド卿、ここには国民を苦しめる悪魔のようなオブジディアンがいるのですよ。
彼はネクロマンサーとなり、この国を死者の国にしようとしている。
そこをどいてください。」
ヒスイは立ち止まり、ラルドに現状を伝える。
「バカかお前は、国民などしったことか、こんな人間ばかりの街や村滅びたところで一向に構わぬ。
むしろせいせいするわ!そして、この後奴とともに、公爵も倒し、魔族だけの国をつくるのだ。
ガハハハ!!」
「疾うに頭の中までも魔物になり果てているのですね。
そして、ネクロマンサーの味方をするのであれば、放ってはおけません。
卿の命、頂戴します!」
ヒスイはそういうとラルドの懐に飛び込んでいき、腰から引き抜いた両手剣でラルドの腕を両断する。
大きな丸太のような腕が地面に落ちる。
しかし、驚いたことに切断された場所から全く同じ腕が生えてくる。
強力な再生能力。
見た目と能力からして、ラルドは怪物トロルのようだ。
以前、カルスから教えてもらったことがある。
双頭で再生能力を持つ怪物トロル。
「やるな人間の小娘が、しかし効かぬな。
これでもくらえ!!」
というとラルドは大きなハンマーを振り上げ、ヒスイに向かって振り下ろす。
しかし、ヒスイは難なくそれを避け、今度はラルドの首を切り落とす。
しかし、これも無駄に終わった。
ヒスイはその後も攻撃を続ける。
敵の動きは強烈だが、動きは遅い、ヒスイの敏捷さは難なくこれをかわせる。
しかし、やつの再生能力が無限だとすると、いつかはヒスイも疲れ果て、その強打をくらうことになってしまう。
そうなれば、一撃で痩身の彼女はバラバラにされてしまうだろう。
「ヒスイ!!」
ゴートが叫ぶ。
チラリとゴートの方を見たヒスイは、微笑んだかと思うと呪文を詠唱する。
「《ガーデン》!!」
ヒスイの首に着けたチョーカーから、蒼色の閃光が飛び出し、ラルドの周りに、巨大な極太の植物のツタが現れ、ラルドを縛り付ける。
さらに何百もの細いツタが現れ、ラルドの四方上下360度、あらゆる方向から体を突き刺す。
全身のありとあらゆる場所の全てを貫かれ、そのうちの一本が、ラルド体の中にあるエメラルドを抜き出した。
そして、それと同時に、ヒスイの両手剣が、ラルドの頭を2つとも切り落とす。
ビクビクと体をそれでも動かそうとするラルドだが、ツタに縛り付けられ動けない。
しかも、再生魔法の元になっていたと思われるエメラルドが抜き取られ、体も再生しない。
叫び声をあげる間もなく、ラルドは地に伏した。
「「すごいな、おい」」
久々に俺たちのハモリが出てしまった。
「おい、ゴート、お前あんまりあの子を怒らせない方がいいんじゃないか?あれ勝てないぞ。」
「あ、ああ・・・・・・、そうだな。
気をつける。」
「なにか言いましたか?」
これくらいあたりまえです、と言わんばかりの顔でヒスイが、俺たちの前に立つ。
「「いえ、何も!」」
俺たちは、直立したまま姿勢を正して答える。
「ならいいのですが、ちなみに私は内緒話が嫌いです。」
ヒスイは緑色の血を払い、剣を鞘へ入れる。
そして、ラルドが持っていたエメラルドを胸のあたりにしまうと、さあ行きましょうといって、礼拝堂へ衛兵と一緒に行ってしまった。
「もしかして、俺たちの方が足手まといなんじゃないか?」
「まあ、昼専用と言っていたからな。
この後が俺たちの出番だよ、・・・・・・と思う。」
そんなことを話ながら俺たちはカタコンベに入ると、衛兵たちに協力して、火をつけた。
夕方になる頃、礼拝堂とカタコンベは、ほぼ全体が燃え上がっていた。
これで、地下の亡骸までがおそってくることはないだろう。
後は、この街のどこかにいるであろうネクロマンサーを打倒するのみだ。
俺たちは手分けして廃墟の隅から隅まで敵を探した。
しかし、奴を見つけられないまま、この街にとうとう夜がやって来てしまった。




