第6節 その2 瑠璃とゴート
城を出た後、近くの宿屋に入り、部屋のカギを閉め、カーテンも閉め切った後、僕は呪文を唱える。
「サモンセルフ!」もし、あいつがゾンビどもにやられたのなら、これで現れるはずだ。
そして、その予想通り、青白いオーラをまとった分身があらわれる。
「おお、久しぶり。
瑠、いやヒスイさんのことだな?いやー、やられちまったよ。」
分身は笑いながら、答える。
先ほどの記憶を持っているということは、だいぶ前にやられたのか。
「いやー、じゃないよ。
まったく。
言いたいことはたくさんあるが、まずは、こちら側もいくつかの情報をつかんでいる。
情報交換と作戦会議が先だ。」
俺は分身に対して、少しだけいらついた感情をいだきながらも、まあ、自分のことだしと、やり場のない気持ちのまま、話を進めることにした。
お互いの情報を話終えると、どうやら、デイサイトはもちろん、パーサイトについても分身は知らないらしい。
そして、二人の話は、見事にかみ合い、どうやらそのオブジディアンという名前のネクロマンサーが元凶のようだ。
そいつがヒスイの街を攻めるためだったのか、自分のためかは不明だが、周辺の街や村を襲い、ゾンビ軍団を増やしている。
本拠地はデイサイトと思われる。
とにかく今後の作戦としては、
・とりあえず、アクアマリンを槍に着けておく。スライムマンも必要なら呼び出す。
・あの狂ったネクロマンサーは、討伐する。
・分身魔法のことは、現状話すべきではない(ヒスイが味方になるかは不明のため)。
・ゴートという名前は、即興の名前だったが、これからは、そう呼ぶこととする。
・食糧の補給含め、装備は整えておく。
・明朝、ヒスイと話をして、可能なら公爵を諌めてもらうようにお願いし、もしそれが駄目でも、我々の邪魔をしないで欲しいと説得する。
・3人目の男爵の情報もヒスイに質問する。
とりあえずは、こんなところだろうと、話を終えた後も俺たちは、しばらく話を続けた。
たった3日でも、これほどの違いが出るとは思わなかった。
今後はできる限り別でいた方が良いのかもしれない。
翌朝。
早速、ヒスイの待つ城に二人で向かった。
短剣はゴートに持たせている。
ゴートがヒスイの短剣を見せると、門兵たちは、敬礼をして出迎えてくれた。
話も聞いているのだろう。
客間まで通された僕らが席に座る前に、ヒスイはノックもしないで部屋に入って来た。
「ゴート!ゴート、良かった!」ヒスイがゴートに抱きつく。
「おっ、おい、ちょっと待て、俺は大丈夫だから」
ゴートは照れくさそうに慌てる。
見ていて少し妬ましく感じてくる。
「ゴート、ちょっとこちらへ来てくれるかしら。
・・・・・・コースケさん、少しだけここでお待ちください。
彼に話があります。」
ヒスイは、泣いて喜んでいたと思っていたら、急に態度が変わり、ゴートを連れて出て行ってしまった。
とりあえずお茶を飲みながら、マテリアは今頃どうしているのか、ふとそんなことを思ってしまった。
「ゴート!あなたっていう人は、無事だから良かったとはいえ、なんであんなことしたんですか!どれだけ心配したか分っているんですか?!」瑠璃、いやヒスイ?はかなり怒っている。
「ああ、悪かったよ。
ヒスイさん。
まあ落ち着いて。」
瑠璃はさらに怒りがましたように。
「ここではヒスイと呼んで頂きたいとお願いしようと呼び出しましたが、そちらから言われると何故こんなに腹立たしいのでしょうか。
まあいいです。
瑠璃という名は私の本名ですが、名前には強い力があり、それで人に魔法をかける法具もあると聞きます。
他の貴族の方もそうでしょうが、普段はこの男爵の爵位とともに引き継いだヒスイで通しています。
二人きりの時以外は、瑠璃という名前は使わないでください。」
「でもなんで、あの時会ったばかりの俺にそんな大事名前を言ってしまうんだよ、君は」
俺の指摘に顔を赤らめて、言い訳をする。
「あの時は、私はお忍びで調査をしていたものですから、ヒスイという名前を出すのはまずいと思ったのです。
それが原因で、他の男爵家から攻め込まれるような事は避けたかった。
なので、つい本名を。」
「普通、そういう時は、偽名を使うんじゃないか?やっぱりなんか抜けてるよな、ヒスイは。」
こういうところがほっておけない。
「もうっ!しょうがないでしょ。
次からは気をつけます。
だいたい・・・・・・・」
「まあ、また今度ゆっくり話そう。
今は、コースケの話を聞かないといけないんじゃないのか?俺はまたいつでもお前のところに来るからさ。」
「そう・・・・・・、いつでも?・・・・・・そ、そうね。
こんなところであなたと話していても、おもしろくないし、コースケさんの相談を訊かなければ。
あなたはもう帰ってもいいわよ。」
瑠璃は部屋をそそくさと出て行ってしまった。
しかし、横顔が笑っているように見えたのは気のせいか。
二人がいなくなった後、少しウトウトしていたが、ドアがバンッと大きな音を立てて閉まる音で、はっと目が覚めた。
喧嘩でもしていたのだろうか。
ヒスイと、少し遅れてゴートが入ってくる。
「コースケさん、お待たせしました。
ゴートのことはもういいですので、早速あなたの相談を聞きましょう。
たいていのことはご協力できると思います。
なんなりと話してください。」
俺は、ゴートを睨むと、
(何があったんだよ?)という視線を送ると、
(まぁ、いろいろな・・・・・・。
大丈夫、大丈夫)という感じの視線が返ってくる。
まあ、いいか。
俺はヒスイに、昨晩ゴートと立てた作戦について相談した。
公爵の状態については、それとなく噂を聞いており、ヒスイ自身もこの国の中央都エメルへ行きたいと思っているが、オブジディアンの件が気になっているために、未だ動けていないということだった。
そして、オブジディアンが現れるのは先日襲われた時のように夜だけで、それ以外は姿を隠しているらしいということだった。
そして、かつての戦いを教えてくれた。
「私の法具は夜には使えない。
かつては昼のうちにオブジディアンを倒しました。
彼のネクロポリス計画は許されるものではありません。」
「ああ。
俺たちも協力する、まずは奴を倒そう。
その後の事はヒスイさんが考えることなのかもしれない。」
「はい。
この国の問題はできる限り、この国でカタをつけるべきだと考えます。
ですが、協力していただけるのは助かります。
もうひとりの男爵については、私もあまり存じ上げないのですが、場所はわかりますので、この件の後ご案内します。
しかし、どうやって、あの不死の軍団を倒すのですか?何百、何千といるかもしれません。」
ヒスイはそもそもそこが不安のようだ。
ゴートの方も見ている。
「それなら、考えがあります。
そもそも俺達は奴らのようなアンデッドとは何度も戦いました。
先日ゴートが不覚をとったのは、その対策を彼が忘れたからです。
ですので、正面からデイサイトを攻略します。」
「まあ、そういうことだ。」
ゴートが、横から口を出す。
「あなたは黙っていて。」
即座に、ヒスイがダメ出しをする。
「へーい。」
ゴートは、そっぽを向いてお茶を飲みだした。
「それでは、準備も出来ていますので、早速これから出かけてきます。
奴を倒したら、ご報告にあがりますので、それまでお待ちください。」
俺たちが席を立とうとすると、
「いえ、私も行きます。
先程も申し上げたとおり、この国の問題はこの国の人間が、そして、あのネクロマンサーのとどめをさせなかった私の責任は大きい。
これでも、腕に自身はあります。
足手まといにはなりません。」
そして、旅の準備をするから、街の出口で待っていてください、と言い残し、そそくさと出て行ってしまった。
俺たち二人は、やれやれというポーズをして、席から立ち上がった。




