第6節 その1 ジェイドと翡翠
エメル公国の西に位置する都市《ジェイド》。
ずいぶんと賑やかでこれまでの悪夢のような旅路が嘘のようだ。
城塞都市に似て、街は外壁に覆われてはいるが、門は開放されている。
その巨大な鎖で開閉される門も、夜の間は閉められるようだが、今はこうして何事もなく入れた。
門の近くに鎧を着けた騎士が数名控えていたが、ものものしい雰囲気はなく、平和が続いているように感じられる。
この街の人は知っているのだろうか。
この街の南の惨状を。
そして、この国全体の状態を。
俺はそんな疑問を感じつつ、街の中心街や役場などを回り、色々な人から話を聞いた。
その結果をまとめると、こんな感じだ。
・この都市を治める男爵は、ヒスイという人間の女性で優秀な騎士でもあること。
・ヒスイはオリジナルの宝石を持っているということ。
・ヒスイはエメル公爵家に絶対的な忠誠心を持っていること。
・南のデイサイトやパーサイトに関しては、誰も詳しいことは知らないし、別の男爵であるオブジディアンとは、以前から戦争になるほど仲が悪かったらしい。
・オブジディアンはヒスイによって、滅ぼされたという噂もある。
・最近この国のまわりにある村や町から急に人がいなくなる事件が起きている。
都市の西側中央あたりに、大きめな建物があった。
ヒスイという男爵の居城らしい。
思い切って、直接行ってみることにした。
そして、直接ヒスイという人にこの国の現状についての見解を訊いてみよう。
戦うばかりが戦争ではない。
そして俺の任務は3人の男爵の無力化だ。
街の噂や、暮らしている人々を見ている限り、戦争を望むような領主とは思えない。
しかし、城門の前で、城主に会いたいというと、城主はしばらく不在だ、とのことだ。
どうすべきかと悩んでいる時、後ろから声をかけられた。
「ゴート・・・・・・、ゴートよね?なんで此処に??・・・・・・生きていてくれて良かった。」
その女性は俺のことをゴートと呼んでいる。
しかし、見覚えはない。
「いや、俺は光介。
人違いじゃないですか?」
「えっ?!コースケ?ゴートでしょ?その槍だって。
ああ、でもあなたはゴートより、そのなんというか、はっきりしているというか、彼って少し透けたような雰囲気で、マントを取ったら、不思議な青いオーラをまとっていたし。」
そうか、彼女は俺の分身の事をいっているのだろう。
この女性は分身に会ったのだ。
「もしかすると、それは私の友人かもしれません。
詳しくお話を伺いたいのですが、私は旅の者。
このあたりのことは良くわからず困っていたところです。」
「ああ。
それなら、安心してください。
私はヒスイと申します。
この城の城主。
さあ、こちらへ。」
そういうと、ヒスイは、城の奥へと通してくれた。
門番達が城主の久しぶりの帰還を喜ぶと同時に、敬礼をしている。
奥の間に通された俺に、客人としての対応なのだろう、綺麗なテーブルの上にお茶菓子がふるまわれた。
(お菓子なんて、白銀の塔以来かな。)
「さっそくですが、コースケさん、ゴートの友人ということでしたが、彼の所在をご存じですか?私は彼にもう一度会ってお礼をいわなければならない。
彼は命の恩人です。」
「なるほど、そうなんですか・・・・・・。
では、それをお答えする前に、お聞きしておきたいのですが、最後にあなたが彼に会ったのはいつですか?」
そして、彼女とゴートの間に起きたこと、最後にはゾンビの群れから助けてくれたが、彼がその群れに飲み込まれてしまったこと。
それらをとても悲しそうな顔をして、語ってくれた。
「そういうことですか。
では、私は彼の所在にこころあたりがありますので、明日彼を連れて出直してまいります。
その時、私からもご相談があるのですが、聞いていただけますでしょうか?」
ヒスイは驚いて、
「本当ですか!?もちろんです。
私にできることがあれば、なんでもききましょう。
そうですね。
この短剣をお持ちください。
これを見せれば、城門の門兵はもちろん、街の人は皆あなたに協力してくれるでしょう。」
そうして、彼女は紋章が彫り込まれ、束に翡翠がつけられた宝剣を貸してくれた。
「ありがとうございます。
それでは、明朝またお伺いします。」
「はい。
お待ちしております。
くれぐれもゴートによろしく。」
ヒスイはそわそわした感じで、送り出してくれた。




