第5節 その1 カタコンベ
エメル公国の南西に位置する街《デイサイト》。
しかし、地上に建っている建物はおそらく何年も、いや何十年も使われていないようで、街全体が廃墟のようだ。
人影らしきものはない。
散々歩き回ったが、何かの役に立ちそうな、これといった情報などもなく、別の場所に戻ろうかと思い始めながら歩いていると、この街の最も奥まった所に、ひときわ大きな修道院があり、つい最近も誰かが出入りしたと思われる痕跡がある。
中に入ってみると、そこには何もなかった。
ただ、正面奥に扉があり、その奥には地下に降りる階段のみがひっそりと、口を開けていた。
不吉な気配を感じながらも、階段を下りて行く。
階段は数十メートル以上続いている。
きっとかなり深くまで降りている。
そしてたどり着いた階段の終点には何もない行き止まりのようだったが、小さな扉があり、そこをくぐると、少しひらけた場所に出た。
じめじめとして、かなり寒い。
天井から床まで壁には何層もの数十センチの隙間があり、そこに遺体とおもわれる人骨が横たわっている。
そのような壁が左右に延々と続いている。
おそらく何百、何千もの遺体がここに埋葬されているのだろう。
どうもここは《カタコンベ(地下墓地)》のようだ。
正面の道を進んでいくと周りの遺体に少しずつだが、変化が感じられた。
具体的にそれが何かは分らないが、若干新しいと思われる。
そんな程度の違和感だ。
途中から迷路のように、複雑に折れ曲がっている。
一本道なので迷うことはないのだが、方向感覚がなくなり、不安になってきた。
後から増築されたようだ。
そして、突きあたりと思しき吹き抜けに出た。
はるか上方に天窓があり、地上からの風を感じる。
ここから空気を入れているのだろう。
そして、結局何も無かった。
静かだが、こんなに気が滅入る場所は他にあるだろうか?ここにいたであろう最後の一人はどんな気持ちだったのだろうか。
それとも集団で移住をしたのだろうか?そして、さきほど見つけた最近利用したと思われる痕跡の正体も不明だった。
もしかしたら、この中のどこかに、墓参りにでも来たのかもしない。
そんな風に考えながら、カタコンベを後にした。
デイサイトという街の名前が書かれた看板を見つけたのは、昨晩のことだ。
相棒と分れて街道からそれた小道を歩いて行くと、 《↓デイサイト←パーサイト》と書かれた標識があった。
どのくらいの距離かもわからない状態で、時間に限りもある状況だったこともあり、集合場所から遠くなる方へは行かずに情報を収集したかった俺は、先にデイサイトへやって来た。
しかし、何の成果もないまま戻るわけにも行かず、少々日程がきつくなるが、いそいで、もうひとつのパーサイトへ向かうことにした。




