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第3節 その3 分身(ゴート)と瑠璃

礼拝堂は長椅子がいくつか設置されており、正面奥に石造りの教壇のようなものがある。




二人ともそこに座り、一息つく。


俺は水筒を取り出し、水を飲んだ。


その様子を食い入るように眺める綺麗な瞳が視線に入った。




「うん??どうした?喉渇いているの?水、飲むかい?」


俺は水筒を差し出す。




「いいんですか?いえ、今あったばかりの方から貴重なお水をいただくなんて、大丈夫です。」


かなり無理をしているようにみえる。


俺は、水筒をその手に持たせると、もうこの水はあげた、この話は終わりだという風に装いつつ、目を逸らし、


「ところで、君の名前は?相談するにも名前も知らないと、話も、その、しにくいしな・・・・・・」人に優しくするのは、照れ臭かった。




「私は・・・・・・瑠璃といいます。


この北にある、エメル公国自治都市ジェイドからきました。


この村もジェイドの管轄です。


・・・・・・あの、あなたは?」


水筒を持ったまま、瑠璃と名乗るその娘は、おそらく男爵がいると思われる都市から来たようだ。




「俺は、コー・・・・・・、ゴートだ。


誰かに頼まれて此処に来たんだが、どうも記憶喪失になったのかもしれない。


この村を調べに来たこと自体は覚えているんだが、それ以前のことがどうにも思い出せない。


・・・・・・・名前ぐらいしか。」


さすがに本名やアーゲンタム領から来たとは言えない。




「なんですって!?そうなのですね。


わかりました。


やはり、きっと何かあるんですね、この村には・・・・・・。


ゴート、一緒に調べましょう。


そうすればきっとあなたの記憶も戻ると思うの。」


瑠璃は俺のその場の適当な話を信じてくれた。


少しばかり心臓のあたりに鈍い痛みを覚えたが、仕方がない。


むしろ協力者が増えてくれたんだ。




「とりあえず、もしよかったら、調査とその後の作戦は明日の朝から、じっくりやらないか?実は、とても疲れていて、もう起きているのがつらいんだ。


とりあえずお互いの名前や目的もわかったし、その、どうかな?」


俺は、手持ちの干し肉を彼女の手に渡して、隣の長椅子に横になった。


なぜだろう。


今は話を進めたくない。


このまま時間を止めてしまいたい。




そうだ、寝てしまえばいいんだ・・・・・・。


俺は返事も聞かずに勝手に寝てしまった。




もし朝起きて瑠璃がいなくなってしまったらどうしよう。




「私は先にいきますね」などと言われたら、どうしよう。


あまり思い詰めない方がいい。




これまで、自分はかりそめの存在という事が本質的に分っていて、正直言って投げやりにやってきた。


あいつは、《俺》の事をいつもどんな恐いところでも飛び込んでいく勇気があると信じている。


同じ自分なのにと。


それは勘違いだ。


自分は存在が多少希薄な分、痛みや恐怖心もほとんどない。


根本的に何事にも執着心が無いだけだった。


しかし、今は少し違っていた。


こんな気持ちは初めてだった。




どのみち、もし明日の朝起きた時に瑠璃がいたとしても、彼女とこうしていれるのも、残り


あと2日しかないのだから・・・・・・


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