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第2節 その2 エメル公国への攻略

「基本的な戦略だが、まずカルスを中心とする骸骨兵たち親衛隊1万の軍が先方を務める。


これがメインの戦力だ。


戦闘は彼らがほとんどやってくれる。


そして、その後5万の軍勢、銀の師団を私自ら率いて、本隊として攻め込む。


この軍隊は徴兵した市民たちだ。


彼らは基本的に防衛術のみに特化して訓練した。


彼らの仕事はカルス達が平定した都市や近隣の街・村の救護や警備などの治安維持活動をしてもらうことだ。


また、道路や建物などの建て直し、食糧確保のための人道支援などだ。


結果的に国民のいないような国は、それはもう国とはいえない。


民を救ってこその軍隊だ。」


伯爵は、自国の民はもちろん他国の住民にも思った以上に気を配っている。


逆らうもの以外は一人とて命を無駄にしないという意志の表れだろう。




「そして、君たちの仕事だが、重要な任務がある。


まず、コースケ。


お前は自分が思っている以上に重要な単独戦力である。


遊撃部隊として、敵の戦力を削るのだ。


以前話したとおり、この世界での戦い、軍団の戦力とは、単なる武装や人数だけではない。


むしろ、法具を使った戦術が戦況を左右する。


そして、この国は小国ながらも多数の法具、しかもオリジナルを有している。


しかし、エメル公国も大国。


彼らの領主であるエメル公は、オリジナルのエメラルドを持ち、その召喚獣はグリーンドラゴン。


それだけで強大な力を持つ。


また、首都とはエメル山脈をはさんで反対側の3都市それぞれに3つの男爵家が控えている。


彼らも強力な法具を持っていると聞いている。


我が本隊は城塞都市北側からエメル首都へ向かう軍勢として戦力を集中させる。


西側からの3都市方面との2方面戦線はできんのだ。


つまり、お前が、代わりに一人で3都市を攻略するのだ。


一人といっても、直接の支援はせんが、私の諜報部員がお前の状況をこちらに知らせるし、こちら側の状況も必要に応じ伝える時があろう。


お前が各都市をどうにかして攻略・解放すれば、部隊を派遣し治安維持などを取り計らう。


よって、お前は戦闘のみ考えれば良い。


ここまでは良いか?ちなみに、この3つの男爵家は昔から息が合わなくてな。


互いをけん制して、公爵とは別に自治をしているようなもので、簡単にいうと独立した国のようなものだ。


とはいえ、公爵の呼び出しとあれば、無視も出来まい。


そして、彼らが加勢に来るとなると、おそらく我が軍では勝てぬ。


つまり、お前は我が軍勢が首都に迫り、公爵が助けを呼ぶような事態になる前に、なんとかして、彼らを鎮圧もしくは動けなくすれば良い。


おそらく、公爵も直ぐに呼び出しをかけるようなことはないだろう。


そこまで彼らのことを信用してもおらんようだしな。」


伯爵の説明は分った。


俺は法具を使う男爵をなんとか3人、迅速に倒すということだ。




「男爵達が大部隊を展開していたら、私にはどうにもなりませんが、その場合はどうすべきでしょうか?」


俺も相当訓練した。


しかし、さすがに一人で軍隊に勝てるとは思えない。




「弱気な奴だな。


しかし、安心しろ、そもそもお前が一人で秘密裏に都市に忍び込んでも、正面から立ち向かっても、相手は戦争を仕掛けていると考えるか?せいぜい衛兵が押し寄せてくる程度であろう?良く考えてみればわかることではないか?」


伯爵は、ほんとにお前は馬鹿だな、と付け足すのではないかという、がっかりした顔を俺に向けて言う。


しかし、たしかにこれも伯爵の言うとおりだ。


目立たないように行けば、それとなく男爵自体に近づくこともできるかもしれない。


そのあたりの調査からすべきなのだろう。


マテリアと一緒ならそのあたりはスムーズできそうな気がする。




「わかりました。


マテリア、また冒険だな。」


僕が苦笑いしながら、マテリアをみると彼女は俯いている。




「コースケ。


マテリアには別の任務がある。


お前には一人で行けと先ほど言ったであろう。」



伯爵は当たり前のように言う。




「そもそも、今回も危険な任務だ。


マテリアはこの国に残り、国民のために仕事をしてもらう。


それも重要な仕事なのだ。


主のいない国は荒れ果てる。


もちろん私もそんな長期の不在を望んではいないが、もしものこともある。


そのあたりについてはマテリアも分っている。」



「コースケ。


ごめんなさい。


私もあなたについて行きたいのだけど、それは私のわがまま。


この国の人達のためにやらなければいけない、私にしかできない仕事がある。


私も本当に悩んだし、お父様に何度も相談したわ。


でも今はそれしかないの。」



そういえば、マテリアは養女になってからは伯爵の事をお父様と呼んでいる。


もともと伯爵はマテリアの事を娘のように可愛がっていたが、マテリアも父親のように慕っているのだろう。




(たしかに、今回の任務はマテリアには危険すぎる。


むしろ今の俺からすると、足手まといになる時もあるだろう。)


「わかりました。


たしかに仰る通りです。


マテリア、君も一人になってしまうね。


もし何かあったら・・・・・・」


連絡手段がない。




「大丈夫だ。


マテリアと私にはお前も知っている通り、そのペンダントがある。


そして、私の兵士を2体護衛につけておく。


お前が心配することはない。


むしろ私としては、お前の傍にいる方が心配だ。


いろんな意味でな・・・・・・。


よって、今日からマテリアは私の城で生活してもらう。


これもマテリアには話してあることだ。


・・・・・・なんだ、聞いていないのか?」


伯爵はマテリアを連れて行くと言っている。


そんなことは聞いていない。




「お父様、せめてコースケが旅立つまで身の回りの世話だけでもしてあげたいのですが、だめでしょうか?コースケは私の家族です。」


マテリアが懇願する。




「それはならん。


身の回りの世話が必要なら、私が適当に手配する。


明日から誰かよこそう。


さあ、話は終わりだ。


行くぞ。」



伯爵はマテリアの手を引き、連れて行ってしまう。


その左手には銀の指輪はついていない。


伯爵が調査を兼ねて取り上げているという話だった。


急な展開に俺はマテリアの存在が遠くなっていくことが、現実として受け入れられなかった。


だから、これ以上ひきとめることもできず、また何か言うべき言葉も思いつかず、ただ単に、


「マテリア!・・・・・・忘れ物、無いようにね・・・・・・旅立つ前に会いに行くよ。」


「コースケ、コースケ!」伯爵はマテリアを抱えあげると、あっという間に夜の空に消えてしまった。



俺は、しばらく呆然とテーブルの前で腕を組んでいた。




「マテリア・・・・・・」




 それからしばらく一人の生活が続いた。


伯爵の手配で、お手伝いのメイドさんが来たが、


一人で特に不自由はないと断った。


正直、マテリア以外の人に家の中をあまりいじって欲しく無かった。


ここはマテリアの家だ。


小さいながらも二人で楽しく暮らしてきた。




(俺はいったい何のために危険な旅に行かならければならないんだ?)


俺はこの任務がマテリアのためになるとは分っているし、伯爵のためにも、この国の人達のためにも頑張りたい。


でもそれは二人の暮らしを守るためではなかったのだろうか。


しかし、それは俺が望んでいることだ。


本当にマテリアの幸せを考えるなら、伯爵の言うとおりにすべきなんだろう。


悩んでいても仕方がない。


今度の戦いが終われば、マテリアはこの国の国主となる。


その時俺は、彼女の騎士として傍に仕えることになる。


それならば、その時こそ、ずっと一緒にいられるようになるのではないだろうか?




マテリアが出て行ってから、1週間がたった朝、俺は旅立つことにした。


城塞都市は、徴兵や軍備に注力していて皆が大忙しだった。


師団の出陣もそう遠くないだろう。


俺も先行して、できるだけ早くこの戦争を終わらせるために出発しなくてはならない。


西門からウエスト・カパーへ向かい、そこから更にエメル公国との国境に一番近い宿屋へ泊り、明日からの遠征の作戦を《一人で》立てることにした。



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