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第1節 その3 三年の修行の成果


 ・・・・・・




 伯爵の演説から3年後、伯爵の宣言した通りアーゲンタム伯国は豊かになった。


城塞都市の人口は倍以上に増え、街には大勢の人があふれ、市場は常に賑わっている。


城塞都市の門も常時開放されている。


交易や観光で、国中の都市や街道も多くの人々が往来し、皆その恩恵により、豊かな生活を享受していた。


国境の警備はもちろん、夜中の街道にも骸骨兵たちがしっかりと守りを固め、盗賊の類もいない。


元々魔族と人間の争いがほとんど無いこの国はこれまで以上に、お互いの種族は尊重され、連携し好循環を生んでいた。






伯爵からの訓練は、基本的に通信教育のようなものだった。


伯爵からの指示で実際に光介に武芸を教えるのは、カルスと骸骨兵だった。


最初の1年は基礎訓練や体力づくりで、都市の外での走り込みが中心だった。


他には伯爵から拝領した銀の槍を使った素振りのようなものだった。


1日2時間程度、鍛冶屋の仕事に行く前の早朝に訓練は行われた。


最初のうちは、体力がもたないことに加え、あまりの槍の重さに、全く思ったように扱えず、ただただ握力が無くなるまで、持っているだけのような状態だった。


そんな感じで一年以上を過ごしていた。



 ある程度槍が振り回せるようになり、1時間程度走り続けても息が上がらないようになった頃、やっとカルスが戦闘訓練のメニューを追加すると言ってきた。


しかし、それは鍛冶屋の仕事が終わった後の1時間を使うということで、夕方から夜になるころの時間に行われた。


内容的には、骸骨兵の1人と剣を交え、実戦形式で槍の使い方、払いや突きなど、槍による攻撃や防御の仕方、剣や槌、各種武器が違う相手との戦い方だった。


実戦形式といっても、骸骨兵はめっぽう強く、これまで戦ってきた魔物の比ではなかった。


さすがに《奈落の魔物》ほどではないが、1対1では全く勝てない。


もちろん、分身や法具の使用は一切禁止されていた。




戦闘訓練を開始してから1年近くたった、やっと骸骨兵とまともに戦えるようになった頃、集団との戦闘メニューが加わった。


これは1人で複数の敵に対処するというもので、骸骨兵5体を同時に相手にするというものであった。


光介の力や技量では、まったくどうにもならず、最初のうちは、めったうちにされるばかりだった。


幸い彼らの武器は竹刀のようなもので、ダメージはあるが、大けがをするようなものでなかったことと、訓練の後、カルスが持っているアクアマリン(オリジナルではないので速攻性はないが回復魔法としては十分に有効だ)を使って回復していたため、バテバテにはなるものの、毎日の訓練ができなくなるような大怪我をすることはなかった。


また、この訓練が始まった後、数日に一回程度カルスが相手をしてくれることがあった。


カルスは優しい普段の言動からは想像できないほどの強力な騎士だった。


強力な打撃、素早い動作も圧倒的であったが、光介が何より驚いたのはその剣術・体術だった。


流れるような無駄のない身のこなしは、芸術的だった。


これなら《奈落の魔物》にも勝てるのではないだろうか?もちろん、奴らは特殊な体質で攻撃自体を受け付けないし、それは難しいかもしれない。


しかし、もし奴らが、あの不死身のマグマの化身ではなかったら、もしくはこの槍を携えて戦えば、相手が2体や3体だったら、きっとカルスはあっという間に倒してしまうだろう。


これまでの訓練で、剣術と体術の重要性と強さは光介でも理解できている。


その頃の光介では、カルスに一撃を与えるどころか、すべての攻撃をかわされ、全くの子供扱いだった。


そんな特訓がさらに1年以上続いた後、光介はカルスと同等の対戦ができるようになっていた。


もちろんカルスが本気を出しきってはいない可能性は大いにあるが、伯爵の銀槍を自在に扱えるようになり、骸骨兵であれば、10体程度同時戦っても、楽に倒せるまでになっていた。


そんな光介が一番自信をつけていたのは、自分で戦うという強い意志だった。



(これまでのように分身に頼らないで自分の力だけで逃げずに戦うんだ・・・・・・。)




光介は17歳になっていた。


身長も以前より20cm以上も伸びた。


鍛冶屋の仕事もマスターからは、ほぼすべての仕事を任されてもらえる程上達しており、食器類や武器・防具、装飾品など様々な物を鋳造できるし、装飾にもこだわるようになっていた。


以前みた悪魔ゲートの怪しくも壮大で美しい装飾に魅せられて以来、少しでも魅力的なモノが作れないかとコツコツと技術を磨いていた。


また、この世界の文字も読めるようになっていた。


何もかも成長した光介だったが、この3年間こうして様々な事に集中できたのも、マテリアが炊事や洗濯、掃除などの家事をすべて担当してくれたことが大きい。


そんな彼女も伯爵の元で、政治や経済など含め、様々な事を教授してもらっており、クプラム子爵からも後を継ぐように請われていた。


以前から体調不良を訴えており、とうとう1年程前に病気で亡くなったクプラムの子爵の位と銅の杖を正式に継ぎ、この城塞都市の市長にもなっていた。


これまでに二人のために色々な配慮をしてくれた老婆の死に、マテリアはしばらく元気を失くしていたが、市長としての責務を果たすため、その死を乗り越え精神的にも成長していた。


3年前に冒険していた時のマテリアにはない、しっかりとした物腰と落ち着いた所作などすっかり伯爵令嬢と言われてもおかしくはない、そんな女性に変わっていた。


光介にとっては妹のような存在で、また常に一緒にいることもあり、マテリアのそういう変化に改めて訊かれなければ気付がなかっただろう。




そうして、二人と、この城塞都市は、まさに伯爵が3年前に宣言した通りに成長していた。


そんなある夜、いつものように仕事と訓練が終わり、光介とマテリアが夕食を取った後に一日の出来事を話している時、ノックの音がした。



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