第1節 その2 伯爵の宣言
その日の正午、城塞都市の広場は大勢の人で埋め尽くされていた。
伯爵は告知したとおり、広場の中心にある背の高い噴水の上に、遠くから降り立った。
そして、拡声器を持っているわけでもないのに、とても大きな声量で、話を始めた。
「皆の者、よく集まってくれた。
私はこの国の領主であるアーゲンタム伯爵である。」
そう伯爵が挨拶をすると、伯爵の事を皆が知っているのだろう。
大歓声と拍手が巻き起こった。
その拍手が収まるのをゆっくりと待っていた伯爵が言葉を続ける。
「これまで、この国はいろいろな原因、主に私の怠惰が招いたことだが、貧しく、つらい思いを皆にさせてきた。
しかし、北のノースカパー、南のサウスカパー、そして、西のウエストカパーとの交易も再開できる環境が整った。
よって今ここで、私は以下の事を宣言する。」
伯爵の言葉に、広場の観衆は皆静かに耳を傾けている。
「一つ、私は、この国を今後3年間で再度、以前のように豊かにする。
そうすれば、きっと皆の生活も楽になるであろう。」
その言葉に街全体が湧き上がる。
「一つ、自分は、そのあと、荒廃した隣国の《エメル公国》を平定し、伯国をより安泰にする。
これは皆の暮らしの安全を守ることに繋がる。
これにより、魔物や隣国からの侵略に怯える必要はなくなるだろう。」
拍手と歓声が鳴り止まない。
伯爵は手をあげ、まぁまぁ話はまだある、とでもいうように皆の興奮を落ち着かせた。
そして、話を続ける。
「一つ、それらが成し遂げられたあと、自分の養女となった、ここにいるマテリアに国を譲る。
そのマテリアを護衛する騎士としてこのコースケを任命する。
そして、今後3年間、マテリアには私の知識を授け、コースケには戦いを教える。
彼らはきっと私の期待に応えてくれるだろう。
なぜなら、既に彼らはこの私とこの国をこんなにも元気にしてくれたのだから!」
伯爵の演説が終わった。
しばらくの間、大歓声は続き、噴水の近くへ呼び出されていた二人にも拍手が送られた。
2人の噂や成果は既に知られており、伯爵の隠居を残念に思いながらも、新しい希望に国民は、皆、歓喜するのであった。




