第7節 その1 悪魔ゲート
48階は、これまでのフロアと全く違う造りで、他の階は程度の差はあれ、迷路のような造りと、たくさんの魔物が徘徊する《地下迷宮》そのものだった。
しかし、この48階は、一部屋の大空洞になっており、他の階フロアが天井まで2、3メートル程度だったのに比べ、ここはゆうに10メートル以上はある。
そして、大きな3メートルくらいの装飾された大きな門が階段と反対側にあり、片方の扉が開いている。
おそらくあれが 《悪魔ゲート》だろう。
そしてその門の横には、眩しい光を放つ銀色の槍が突き刺さっている。
あれが伯爵の槍で間違いないだろう。
僕らのゴールはもうすぐそこだ。
しかし、僕らは、全く喜んだりできなかった。
なぜなら、その直ぐ前に本当の悪魔のような怪物が2体、居座っていたからだ。
その体はまるで煮えたぎるマグマのような、赤黒い光を内包し蠢いている。
体は門と同じぐらいはあるかと思われ、筋骨隆々なその体には、見る者に暴力という恐怖を呼び起こす凶器のような腕と脚を持っている。
鉤爪がついた大きな蝙蝠のような翼をまとい、ねじれた大きな角を頭の左右に生やし、顔と思われる場所には、目や鼻はなく、大きな口と牙だけが見え隠れする《奈落》の怪物だ。
これだけ見通しが良い何もない部屋だと、こそこそ隠れてできるようなこともなく、正面から挑むしかなさそうだ。
僕らは奴らに気づかれる前に、作戦を立てることにした。
「分身とスライムマンが、左右から一体ずつ敵をおびき出し、分断させる。
そして、僕が槍を抜き、あわよくば扉も閉める。
しかしあれだけ大きいと相当の重さだろうから、直ぐに閉まらなそうなら、いったんあきらめる。
マテリアは銅の杖で可能な限り援護してくれ。」
僕は、能力の分らない魔物については、一旦様子をみつつ、目的の槍を入手すること、そしてゲートの封鎖を最優先にした。
「スライムマンじゃないよ。
ゼリー君だって言ってるのに・・・・・・」
マテリアは自分がつけた名前を気にいっているようだ。
スライムマンは困ったように、僕とマテリアを交互に見ている。
「私は、誰に魔法を使えばいいの?」
マテリアが銅の魔法をかける相手を尋ねる。
マテリアの持つ銅の杖は、クプラムさんから預かっている銅のオリジナル法具でそれ単体でも特殊な能力がある。
通常の銅の法具で使える魔法は、10~30%程度割増した重力をかけることができるだけだが、マテリアが持つ杖は、最大2倍の重力魔法をかけることができる。
しかも重くするだけでなく、軽くすることもできるのが実は最大の特徴だ。
有効時間は10分程度だが、魔法を再度行使するまでのリードタイムも無いため、ほぼ連続でかけることが可能だ。
直接ダメージを与えるようなものではないが、これまでも、相手の動きを遅くしたり、逃走時に自分を軽くすることで、ダンジョン攻略に貢献してきた。
「うん。
まずは、僕に《ウェイトダウン》かけてくれ、速攻であの槍を引き抜いて戻ってくる。」
僕は槍を抜いて直ぐにマテリアのところに戻ってくるつもりだった。
「その後、ゲートを少し押してみて、様子を見た後直ぐにマテリアのところに戻る。
後は、分身とスライムマンの戦い次第で、加勢する。
もし《ウェイトダウン》が切れたら、僕が加勢した方にいる敵に向かって《ウェイトアップ》をかけて、動きを遅くしてくれ。」
「りょうかい。
だけど、スライムマンじゃないって・・・・・・。」
マテリアは少し緊張感が足りない。
「よし、じゃあ作戦開始だ!」
僕は、分身とスライムマンに先行させ、様子を窺った。
部屋のほぼ外周から分身とスライムマンは《奈落の怪物》に近づく。
片方が気付き、スライムマンに襲いかかった。
それは予想を超える脚力による跳躍でスライムマンの目の前で、大きな腕を縦に振う。
その粗雑な攻撃は強烈なスピードと真っ赤に燃えあがる爪と手から繰り出され、スライムマンをたったの一撃でつぶしてしまった。
通常の残撃や刺突攻撃はスライムマンに利かない。
こん棒のようなもので殴られても体の一部が無くなるだけで、スライムマンが倒されるような事は、初めてだった。
僕は呆然としていたが、我に返り、もう一匹の方の様子をみると全く動こうとしていない。
むしろ槍の前から動こうとしていないようだ。
分身の方もどこまで近づくべきか判断に迷っているらしく、部屋の真ん中左あたりで、止まっている。
どう考えても一旦撤退だ。
「マテリア!撤退だ。
それとあいつに《ウェイトアップ》 !!」
僕が叫び指示を出す。
しかし、その声で、違う敵の来訪に気付いたスライムマンを潰した《奈落の怪物》は、僕とマテリアの方に向かってくる。
「《ウェイトアップ》!」マテリアの魔法がオレンジ色の閃光とともに、怪物にあたる。
魔法は利いた。
翼をはためかせ猛裂な速さで近づいてきた怪物のスピードは確実に落ちた。
しかし、それでも僕らが走るスピードよりも奴の移動スピードの方が速い。
このままでは直に追いつかれる。
分身は足止めしようと、こちらへ戻ってくるが、奴には追いつけない。




