第6節 その3 地下48階
しかし、マテリアは真剣な面持ちで、こちらへ杖を向ける。
戦う気だ。
「ダメだ、マテリア。
僕は大丈夫だ。
直ぐに追いかけるから。」
「大丈夫、やっとアクアマリンの召喚魔法を使う時が来たんだよ。
いくよ!」
マテリアが杖を振り叫ぶ。
「来て!ゼリー君!」
マテリアがアクアマリンを付けた銅の杖を振るうと、杖の先から、透明で水色がかった人間のようなものが出てきた。
身長2メートルはあろう巨体だ。
しかし、体は確かにゼリーのような質感で、プルプルとしている。
あまり動きは早くないようで、正直弱そうだ。
「ゼリー君、コースケを直して!」
マテリアが巨体に命令する。
ゼリー君と呼ばれたスライム人間が僕の足を触ると、傷が塞がり、若干体力も回復した気がする。
そういえば、以前、サハギンにやられて僕の肩が砕けた時も、一晩で治っていた。
あの時も、なんだかこのヌルッとしたものが、ついていた。
(ああ、あの時もこのスライムマンに助けてもらったのか・・・・・・、凄い能力だなスライムマン。
おそるべし。
・・・・・・でも、ゼリー君はないな。)
ぼうっとしていた僕に、2頭のゾンビ犬が襲いかかってくる。
とっさに、腕で顔を覆うと、さらにその外側に、大きな腕が覆いかぶさるように打撃を繰り出す。
グシャ、グシャという音とともに、スライムマンの拳が、ゾンビ犬を吹き飛ばす。
見た目とは違う鋭いパンチが2撃、それぞれの魔物を一発で仕留める。
スライムマンのパンチは打撃力もさることながら、その回復属性が、アンデッドの体を蒸発させる致命的な攻撃となるようだ。
(凄い!凄いよ!スライムマン!おそるべし。)
「ガンバレー!ゼリー君!そのままやっつけちゃえ!」
マテリアはスライムマンの強さに興奮している。
マテリアもこんなにスライムマンが強いのは知らなかっただろう。
僕も一緒に応援していた。
「スライムマン強いぞ!いけいけぇーー!!!!」
僕はスライムマンと呼びたい。
そうして、スライムマンはこの階のほとんどの魔物をやっつけてしまった。
ぼくらは、こうして、さらに下の階のゾンビやグール、36階のゾンビ騎士まで、スライムマンを中心に攻略を進めることができた。
スライムマンの相性の良さがあったと言え、36階を攻略した時には、更に1ヶ月ほどを費やしていた。
そして、僕らは第4層が始まる37階に進むとそこからの魔物は、どうも悪魔のような生物に見える。
大きなハゲ頭に蝙蝠のような翼を付けて、角が生えている。
手と足の指先には鋭い爪がある、真っ黒な怪物だ。
大きさは1メートル程度と小さいが、動きが早く、1匹倒すのにもかなり時間がかかった。
そうして、この階を制圧するのに、5日程度の時間を要した。
さらにそれ以降の階もやはり、ヤギのような頭と、足には蹄を持った悪魔など、強力な魔物に手をやいた。
どうにかこうにか僕らが48階のその大空洞と、一目で伯爵が《悪魔ゲート》と呼んでいた大きな門のある場所についた時には、ダンジョン攻略開始してから206日、つまり半年以上が経っていた。
そして、僕らの前に本当の悪魔が現れた・・・・・・。




