第2節 その1 マテリアの孤独
「・・・・・・ハァハァハァ・・・・・・」
小さな女の子が一人、海岸線を歩き続けている。
歩き始めてからもう3時間ぐらいたっている。
彼女のわずかな楽しみだった夕日もとうに水平線の下に消え去り、真っ暗な何もない草原が続いている。
海岸沿いの道は、大きな石をどかした程度の整備しかされていない。
それほど道行く人もいないということもあり、雑草がかなり生えている。
今日街を出てからこの道を歩き出して、未だに誰ともすれ違っていない。
二人きりの家族。
マテリアという10歳の女の子には、彼女より5歳か6歳年上でとても頼りになる姉がいた。
ご飯を1日1食ではあるけれど、必ずどこからか用意してきてくれた。
とても小さいが二人が寝られるだけどの家もあった。
普段、マテリアが頼まれる仕事は、家の近くでの野草や薪集めだ。
マテリアは、自分にできることはそれくらいだと分かっていたし、いつも一生懸命働いた。
大変な生活だけど、楽しみはあった。
ささやかな二人での夕食。
そして夕食の後寝る前に、話をするのがマテリアは大好きだった。
今日は家の裏にキノコが生えていたとか、西の森の方が薪が多く取れるだとか、そういうたわいもない話だった。
その大好きな姉が死んでしまった。
一週間ほど前に、突然倒れて意識も取り戻すことなく、一日もたたずに死んでしまった。
まだまだ話をしたいことがたくさんあった。
きっと姉にもあったはずだ。
なのに、本当にあっという間に。
二人が住む、この大きな壁にかこまれた《城塞都市》の中には医者はいるが、マテリアはどこにいるか知らないし、以前から姉に「何があっても医者は呼ばないでほしい」と言われていた。
姉は、「もし私が死んだら、家の東の森の中にあるお花畑に埋めてほしい」と言っていた。
マテリアはそれを聞いて思わずクスクスと笑ってしまった。
マテリアの知る限り姉は健康で病気なんてしたことがないし、いつも元気でニコニコと笑顔だった。
およそ死と結びつかない姉の言葉は冗談にしか聞こえなかった。
そんなこと現実に起きるわけないと思っていた。
しかし、結果的にその通りにすることになってしまった。
薪を運ぶ車に姉を載せて、森へ運び、できるだけ深く深く穴を掘って埋めてあげた。
そして、姉の大切にしていた本を一緒に埋め、近くの薪を集めて、それで木の墓を作った。
姉の持ち物は、この誰でも持っている水晶できた耳飾りに、あとは数冊の本ぐらいで、傍で摘んできた花と一緒にそこへ静かに添えた。
マテリアは、そこまでしてから急に、本当に急に涙が止まらずこみあげてきた。
そうしてそこから丸一日以上動けなかった。
涙が止まったと思ったら、姉にもう会えないという悲しみが実感となり、今の自分が嘘みたいで、受け入れられず、現実を認めたくなかった。
(もう何もできない。何も・・・・・・)