第4節 その3 共闘
(クソッ)
倒れた僕に、サハギンは獰猛な叫び声を上げながら、また向かってくる。
逃げ切れない。
「サモンセルフ!」
もう僕にはこれしか残されていない。
青白い分身が現れた。
そして、僕を担ぎ、サハギンの突撃する直線上から僕を連れ出す。
「よし!いくぞ、相棒!」
分身は僕に声をかけ、僕もそれに応えた。
作戦は決まっている。
分身が先行し、やつの左側に回る。
サハギンは分身に懇渾身の一撃を食らわしに行く。
僕はその斜め下から、エラに向かってありったけの力でナイフをねじり込む。
「ウギギギギイィイィ」
悶え苦しむサハギン。
こちらを向き直す。
(ざまあみろっ!)
そして、その間に分身はやつの胸に突き刺さっていたナイフを引き抜き、もう一方のエラに、同様にナイフをねじ込む。
サハギンは仰向けに倒れた。
「グギギギイィイィ・・・・・・」
今度は声も出ないようだ。
「とどめだ!!!」
「おう!!!」
僕と分身は二人の間を向いたサハギンのエラに刺さったナイフの束の先に向かって、思いっきり踵で踏みつける。
両方のナイフがサハギンのエラの奥、恐らく頭の先まで突き刺さった。
「ヴギ・・・・・・・ギッギィイイイイイイイギイイ・・・・・・・・・・・・・」
バタリとサハギンは叫び、そして沈黙した。
「「ハァハァ・・・・・・・・」」
僕と分身は息を切らしながらもお互いを見つめて、微笑む。
「ヨシ!ヤったぞ!」
「ああ。
やったぞ!」僕らは、座り込んで、勝利を何度も確認し合った。
僕は、アクアマリンと黒い腕輪をポケットに入れ。
マテリアを後ろにおんぶした状態で、分身にロープで結んでもらい、落ちないようにしてから、相棒を元に戻した。
「アンサモンセルフ」
次に何がおきるか分からない。
先ほどの再召喚に必要な時間は約15~6分。
1000秒ぐらいだった。
スペルにより無事に帰還させた場合は、ほとんどリードタイムはない(大ダメージを受けてしまった後はリードタイムが必要)。
これからはいくら分身といえども、無茶はさせない。
それに大事な相棒だ。
伯爵の言う通りだ。
肩からは痺れのような痛みが、体全体を蝕み、もう左上半身の感覚がないようだ。
だけど、僕は今満足している。
宝石も手に入れた。
無事にこのままマテリアを連れて帰れればいい。
伯爵の説教は怖いが、とにかく勉強になった。
たとえ10年間肉体的な訓練だけしても得られないだろう何かを今日手に入れること出来た気がする。
僕は街に戻り、派出所の警官に事のあらましと黒い腕輪を渡した。
腕輪を見た警官は、最初は気が動転していたのか、呆然としていたが、直ぐにマテリアと僕をベッドに寝かせ、
「ありがとう。
ありがとう。」と涙を流して、お礼を言ってくれた。
大体のことは分かっていたのだろう。
そして、
「ちょっとだけ待ってろよ。
すぐに医者を連れてくっからな。
動くなよ!」といって、走り去っていった。
その言葉に僕は安心したのか、走り去る後ろ姿を見ながら、気を失ってしまった。




