第2節 その2 ノースカパー
次の朝も街道沿いをひたすら歩く。
昨日と同じで特に何もない。
途中休憩をとりながら、もうすぐ夕方になろうかという時間に、その分岐点があらわれた。
「↓ノース・カパー、↑エメル公国。」
その標識には間違いなく目的の街が書いてある(実際に読んでくれたのはマテリアだが・・・・・・)。
しかも予定通りの坂道が示す先には続いている。
僕らは、標識のとおり、坂道を登っていくと、小一時間ほどで、街の入り口に着いた。
城塞都市のように壁には囲まれていないが、木の柵が張り巡らされている。
街並みは主に木製の住宅が中心で、高い建物はないが、かなりの数がある。
また、道行く人も多く、城塞都市より活気があるかもしれない。
街の中を進んでいくと、掲示板があり、街の案内図のようなものがある。
僕は字が読めないので、マテリアが色々説明してくれるところによると、どうも町役場がすぐそこにあるらしい。
まずはそこで、この町の代表者を探してみることにした。
町役場には、町長がいたが、子供の僕らの話を最初は訊いてくれなかった。
そんな時、マテリアが、小さな手紙(伯爵の言葉が書かれていたらしい)を町長に渡すと、今度は僕らの話を熱心に聞いてくれた。
どうも話を訊くと、やはり、城塞都市や南の島、西の農業地域との交易ができないのが痛手で、困っているという。
しかし、荷物を運ぶ際に、魔物が出てくることが多く、なんとか城塞都市に辿りついても、他の地域との交易も出来ず、現在は町の中だけでなんとかやりくりしているということだった。
また、さらに北にある隣国のエメル公国から時折、悪い連中が流れ着いてきて、街の者が襲われたり、物が盗まれたりするそうだ。
そういう奴らが言い始めたのだろう「もうすぐ此処に軍隊が攻めてくる」など悪い噂が絶えないという。
伯爵復活の話はそんな状態のこの街の住民にとっては朗報であり、ここから南方にある《南の森》にいる魔物たちを退治してくれたら、すぐにでも交易を開始すると約束してくれた。
また、宿と食糧などの補給も無償で引き受けてくれるという。
伯爵の手紙は効果てき面だった。
それから僕らはとりあえず町のお店や施設を見て回った後、食堂で夕飯をとり、宿屋でゆっくりと休んだ。
街道の洞窟では寝袋で寝たが、やはりベッドがあるとゆっくり休める。
僕らはこの二日間の旅の疲れを癒した。
ゆっくり休んだ僕らは、次の日の朝、南の森に覚悟を決めて出発することにした。
とうとう魔物との戦いだ。
僕らは装備を確認し、街を後にした。
南の森には、オオカミのような赤い目をした獣がたむろしていた。
僕らが気付いたときには囲まれていて、身構えている。
僕が短剣を構えると、それに気付いたのか一斉に襲ってきた。
僕は背中にある木の上に、マテリアを登らせ安全を確保してから、勇気を振り絞りオオカミに立ち向かった。
作戦通りだ。
自信なんて全く無かったが、正直戦いは拍子抜けで、オオカミのように恐ろしい魔物も実際には小さな犬よりも遅く感じた。
また力も弱く、数か所噛まれたが、直ぐに振りほどける程度だった。
(いける!!)
僕は、短剣を振り回し、魔物を倒す。
魔物は倒すと煙のように消えてしまい、何も残らず消えてしまうようだった。
何故かは不明だが、血飛沫や内臓が飛び散るのを見るよりも心が折れずに戦える。
最後の1匹を倒した後、マテリアを木から下ろし、さらに奥に進む。
しばらく行くと町長から言われていた巣があった。
そこには、小さな石のかけらと、ひときわ大きなオオカミ型の魔物が1匹それを守るように、たたずんでいた。
魔物は僕らに気づくと同時に襲いかかってくる。
僕はマテリアを後ろに下がらせ、勢いよく魔物に立ち向かっていった。
もう恐くはなかった。
そして、短剣をふるう。
しかし、短剣は魔物にはじかれ、僕は突き飛ばされてしまう。
今度こそと剣を突き立てるが、その魔物は鋼鉄のように堅い体で僕の攻撃を受け付けない。
スピードは遅いし、落ち着けば噛みつかれたりする前によけることはできるが、これでは倒せない。
「その石を壊して。」
困窮している僕に、マテリアが叫ぶ。
(そうか、あの石がこの魔物たちを呼び寄せている。
《召喚》しているのか・・・)
「サモンセルフ!」僕は、ここぞとばかりに分身魔法を使った。
青白いオーラに包まれた僕の分身は、うっすらと透けているような姿だが、僕と瓜二つだ。
ちゃんと成功した。
装備は持っていないが、用意していた短剣を渡す。
「オーケー!」分身が短剣を受け取る。
何故か少し能天気な性格のようだし、そもそも話すことができるようだ。
(今度ゆっくり話してみよう。)
僕が魔物を引きつけている間、回り込んだ分身が、石を短剣で砕く。
その瞬間、獣はやはり煙のように消え去っていった。
「「「やったー!!」」」僕・マテリア・そして分身が声を上げる。
獣の消えた後に、真珠がついた首輪が残されていた。
僕はそれを拾い上げ、ポケットにいれると、三人で近くを念のため探索した。
もう残りの魔物はいないようだ。
僕らは早速町役場へ帰り、町長に一部始終を話した。
「ありがとう!君たち、早速町で会議を開き、早々に交易を開始するよ。
本当にありがとう。
あと、その真珠の首輪はおそらく魔物からの守りを大きく上げるものだと思うよ。
きっと君らの役に立つ。
持って行きなさい。」
ちなみに、町へ帰る時に分身に訊いたのだが、呼び出されている時の記憶はあるらしい。
伯爵に倒された後のことも、僕としての記憶があるが、分離している時は、独自の記憶も持っているようだ。
こうして、僕らの最初のクエストが完了した。