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第9節 その3 伯爵の依頼

「話を戻すぞ、マテリアが私の棺を破壊したということは、マテリアのオスミウムを使って、棺のように私の生命の核になっているどこかを破壊してもらえば、あれほど願った永遠が手に入る。


しかし、その前にこの子の持つオスミウムの能力がどんなものなのか知りたくなった。


自分が1世紀にもわたり錬成できなかった物質が今目の前にあるのだ、好奇心というやつだな。


そして、マテリアから君のことと指輪のことを聞いて、少し調べさせてもらった。


錬金術の研究をしているときに、ある程度物質の特性が予想されていたのだが、オスミウムの特性はその珍しい色のついた銀色であること(他には、銅、金ぐらいか)と、空気に触れると変化してしまう脆さを持っている。


君の両親はその後者の特性であるところを嫌い、腐蝕耐性の高い銀の中にオスミウムを埋め込んでいたのだろう。


本当はその美しい青銀の指輪を作りたかったのかもしれないな。




ここまで話せばわかるかもしれないが、本来この世界にない、オスミウムが現れた。


そして、マテリア自身の付けている指輪はオリジナルではない。


これは君達の付けている指輪を見てすぐに分かった。


私には銀を透過・透視する性質があってね。


まあだからこそ、その銀につつまれたオスミウムに棺が反応したのだが。


そして、今、目的どおり、その能力を引き出すことができた。」


伯爵はとても満足そうに、話を続けている。


自分もようやく話が理解できてきた。




「さきほどいったように、この絶対状況の中、君は分身体を召喚した。


《サモンセルフ》とても言っておこうか。


その青銀が発現させた君だけの力だ。


もちろん、その指輪は決してなくすのではないぞ。


まあ、仮に例えば私がその指輪を盗んでも、その力を発動できるかは分らない。


おそらくこの世界に存在しない物質であるものの力を呼び起こすことはできないだろう。


そもそも、私の指がけし飛ぶのが先だがね。


フフフ。」


伯爵はお茶をのみ、カルスに自分を解放させた。


僕ももう落ち着いている。


今ふと、両親がこの指輪にそんなに色々なことを考えて作ったということが、とても幸福なことのように感じられた。


何かとてもすっきりした気分だった。




「サモンセルフ、アンサモンセルフ」このおまじないを自分の中でも良いし、声に出してもいい。


唱えれば、君はこの奇跡を再現できるだろう。


まずは「アンサモンセルフ」だ。


この身代わりになってくれた勇者を帰還させたまえ。」


伯爵を横たわっている僕の分身、良く見ると


全体的に体が透けていて、ぼんやり青白く光っているように見える。




「100%のオスミウムではないんだ。


完全な分身にはならんよ。」


伯爵は僕の疑問を見透かしているかのように応える。




「アンサモンセルフ」


僕はお疲れ様という気持ちを込めて、声に出して、その言葉を放った。




分身は徐々に薄くなり、数秒程度で消えてしまった。




「使い方は今度だ。


それでは、今日最後の話だ。


そう、最初に言った君に対する依頼だ。」


「わかりました。


聞かせてください。」


僕は応える。


この世界の事、僕の力が少し分った。






「ふむ。


では、詳細は明日以降に話すので、簡単にいうぞ。


良く理解するように。


コースケ、君の最終的な目的は、隣国の圧政から人々を救うことだ。


正直他の国のことはあまり気にかけることではないのだが、隣国のエメルだけは、私にとってそこを救わなければならないとても重要な理由があるのだ。


今は詳しく離さないが、私の最も大切だった女性が作った国なのだ。


クプラムの話を聞くと、とても放っておくわけにはいかん。


それにこの国の荒廃も自分のわがままから発生している。


領主としてしての責任は果たさねばならん。


隣国はこの小さな辺境の国より何倍も大きい大国。


一人でどうこう出来るものではない。


基本的には私が指揮する師団が首都を陥落させ、統治機構を奪い、制御下に置く。


そして新しい政権を樹立させる。


このあたりは、私が行う。


そこは安心して任せてもらいたい。」


とても大きなことを依頼してきたので、びっくりしたが、実際自分の出番は無いように思えた。


ただ、隣国の方が自分の国よりも大事なように聞こえたのはきっと僕だけだろう。




「であれば、僕にできることはなんでしょうか?」


僕は正直に思ったことを質問する。




「ふむ。


順序だてて話すとするか。


結果的に戦争をすることになる。


これは分るな?」


僕は、頷く。


それくらいは分る。




「そしてそのためには、軍隊が必要だ。


私の親衛隊であり、この城塞都市の警察兼衛兵の骸骨兵たちは1万。


とても足りないし、彼らには彼らの仕事がある。


そして、軍隊を集めたとして、その武器がいる。


また、遠征には食糧もいる。


これも分るな?」


伯爵は丁寧だ。




「はい。分ります。」



なるほど。


たしかに、そうだ。


すでに、想定外だった。




「そして、この国の荒廃した状況を鑑みると、とてもではないが、徴兵・徴収はできない。


つまり、まずはこの国を豊かにする必要がある。」


伯爵はたまにマテリアにも「わかるね?」と少し口調とこちらからは見えないがおそらく顔つきも変えながら、マテリアにも確認をしながら話を進めている。


カルスさんは黙っているが、どうやら何か熱く燃えているようだ。




「具体的に何をするかというと、かつての城塞都市を復活させる。


この都市は交通の要所であり、交易都市であると同時に、工房都市でもある。


これを実現するためには、この国の北方にある畜産都市、南方にある漁業と海産資材を扱う島、そして、西方にある広大な農業地帯を治める必要がある。


今はそれぞれの都市の理由で勝手に自治をしているが、やはりそれほど豊かではないし、治安も良くはない。


これを統一し、この国の経済を循環させるのだ。


そうすれば2~3年もすれば、戦争の準備ができるくらいの発展はし、国民の繁栄も取り戻せる。」


「この国はそういう分担がされていたんですね。」


僕は上手くできた国の役割を感嘆した。




「そうだ。


城塞都市含め、そもそも土地の特性などを生かして、私が設計をした。


たまたまではないんだぞ。」


少し、自慢げに話す伯爵。


マテリアも凄いと思ったのか。


目を輝かせている。




「私も何か手伝いたいです。伯爵様」


久しぶりにマテリアが食べ物以外で口を開き、伯爵に話しかけた。


いや、難しい話の連続で口をはさめる余裕はなかったのだろう、と思う。




「もちろんだとも、マテリア。


君にはクプラムからいろいろ聞いているよ。


覚悟しなさい。」


口調が僕の時とは違う。


話していることは、覚悟しろとかとても厳しいことを言っている風だが、もうなんというか娘に対する親バカのような感じだ。




「ふむ。


そして、次に具体的な依頼をさせてもらうぞ。


ここまでの依頼の背景は分ったかね?」


伯爵は元の事務的な口調に戻る。


これからが僕の仕事らしい。




「実は、この世界の戦闘というものは先ほど説明したように魔法の力がとても重要になってくる。


そして、通常の軍隊にそれはほとんど期待できない。


それほど多くの貴重な法具は国家といえども持つことはできないからな。


つまり、師団や大隊、もしくは特殊部隊などを預かる者が大体において、強い法具をもち、魔法を扱ってくるのだ。


それにより戦術は大きく変わってくる。


ただし、全体的な戦略としては、その法具を持つ者を無効化、もしくは弱体化させることだ。


少なくとも、どんな能力かを把握することが肝要となる。


コースケ、君には、その任務を与える。


敵国の法具使いを調査し、可能であれば、なんらかの方法で無効化させること。


これが具体的な依頼だ。」


伯爵は今までで一番真面目な顔で僕を見る。




「わかりました。


でもまず何からやったらいいのかまったく思いつきません。」


正直な気持ちだった。


役には立ちたい。


しかし、そんなこと今の僕にできるのだろうか。




「当然、今すぐに敵国に乗り込んでなんてことはさせないし、できはしない。


それにさきほどいったとおり、まずは国内だ。


今のままでは、逆に攻め込まれたらあっという間に全滅だ。




マテリアも死んでしまうぞ。


まあ、そんなことは私が絶対にさせないがな。」


伯爵の今の言葉の中に、少しだけ、街の人の全滅よりもマテリアの方が大事だというニュアンスを感じたのはおそらく僕だけだろう。




「よし、では、この任務ミッションをクリアするために、いくつかの依頼クエストを君に与える。


それをクリアしていくことで、最終的にはミッションをクリアするための方策も、みえてくるはずだ。


良いな?」


伯爵は段階的に進めていけば、僕にでも、十分このミッションを果たすことができると言っている気がする。




「分りました。


ではまず具体的なクエストから教えてください。」


僕にも何かできそうな気がしてきた。




「ふむ。


よし、メモを取れよ、順番に言っていくからな。


順序は変えても良いが、おそらく無理だ。


黙って言われた順番でやるのだ。


良いな?」


伯爵は冷静に指示を出す。




「分りました。」


今の僕に正直、自分の知識や意志でこの伯爵が考えるより、さらに上手くできることが考えつくとはとても思えない。


黙って指示されたとおりにするつもりだ。



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