第9節 その2 オスミウムの魔法
「フハハハ、やはりそうだ。
オスミウムの力は予想通りだぞ。」
高い声をあげて笑う伯爵の声が聞こえる。
「面白いぞ、コースケ。
私はやはり生きていてよかった。
これからはやらなければいけないことが山積みだ。
協力してもらうぞ!コースケ。
むろん、ここへ来た時の自分の言葉、忘れたとは言わせぬぞ。
フハハハ。」
そういって、伯爵は優しく、マテリアを席に座らせ、ハンカチで涙を拭きあげる。
「ごめんよ。
マテリア。
ああ、許してほしいこの私を。
ただこうするのが一番だと思ったのだ。
言葉で説明しても召喚のスペルなんていうものはない。
何年かかるか分らないし、元々この世界の住人ではないコースケには無理かもしれない。
分ってほしいマテリア。」
伯爵はマテリアの輝くブロンズの髪を優しく撫でる。
「僕の首が、あれ?自分の首をみているなんて、僕は?!」混乱している。
マテリアは生きているし、僕も生きている。
「コースケ。
君は君を召喚したんだ。
より厳密にいえば、《分身》したとても言えばよいかな。
複製でない。
銀のオリジナルである複製の魔法では自分はコピーできないし、自分の意識も持てない。
しかし、今君は自分を分身させた。
その君の付けている指輪の中にあるオスミウムのオリジナル魔法でだ。」
伯爵は少し興奮しているように見える。
見えるだけで、やはり落ち着いた物腰と冷静な口調に戻っている。
「君は知らないかもしれないが、君がマテリアに渡した指輪はただの銀の指輪ではない。
その指輪の中には、希少金属オスミウムが入っている。
その青銀の金属は、この世界に存在していない。
そして、その物質のみが私は破壊することができる物質であった。
私は錬金術を100年続けたが、オスミウムの練成など出来なかった。
むしろこの世界に存在しないことが証明されていくのみで、一層深い絶望を味わった。
ただの物質でしかない私は、朽ち果てることも許されない。
未来永劫どんな世界になっても存在しなければならない。
彼女のいないこの世界で、私には耐えられなかった。
そして、自分の体の一部を使い、自らの棺をつくり、自分の体を破壊できる、つまりオスミウムもしくは未知の何かがあらわれるまで眠りに就くことにしたのだ。
そして、マテリアがあらわれた。
彼女はいつか私に安らかな眠りを与えてくれる存在だ。」
魔法による実験のようなものがあっただけで、自分や僕が死んだわけではないことは理解できたようだが、まだ落ち着いていないマテリアに、伯爵は語りかける。
「ごめんよ、マテリア。
そして良く聞くのだ。
そしてしっかりしなさい。
ほら、今までで一番マテリアが気にいるデザートを用意してある。
これは貴重だぞ。
味わって食べなさい。
そして食べながら私の話を聞くのだよ。
もう怖いことは私がいる間は二度とないから安心しなさい。」
マテリアは「うん」と頷きながら、プリンのようなデザートを食べ始めている。
やはり割と肝が据わっている。
というかお菓子やデザートの方に明らかに心を持っていかれている。
良く覚えておこう。
マテリアの性格が少し分って来た。




