第9節 その1 光介の切られた首
伯爵はマテリアを抱き上げると、その首先にナイフを突き刺そうとする。
僕が反射的に体を動かそうとすると、カルスさんが僕の体を抑えていて動くことができない。
「何をするんですか?やめてください。
やめろっ!やめてくれぇぇぇ!!!」
僕は叫ぶ。
魔族相手でも一人ぐらいであれば、抜け出せたのにカルスさんは予想以上に力が強い。
「フハハハ。
どうする、コースケ。
マテリアを殺してしまうぞ!」
伯爵の目は恐ろしいほど冷たい目をしている。
なぜこんなことになったのか。
頭が混乱している。
せっかく、病気が治り、マテリアとこの世界で一生懸命に生きていこう、そして、伯爵の話を聞いていろいろなことがわかり、心を躍らせていたのに、なんていうことだ。
「ちくしょうううう!!!!」
くそ、どうにもならない。
僕にはやはり何もできないのか。
伯爵がマテリアの喉をかき切ろうとする。
「きゃあああああああ!!!」
マテリアは突然のことでポカンとしていたが、やっと自分の身に訪れた危険を理解できた。
暴れるマテリアをなんなく片腕で抑えている伯爵。
「ああああああああああああああああっっっ!!!!!」僕は声をあげる。
そして、伯爵のナイフが首をかき切った。
ナイフの切れ味はものすごく鋭敏で、豆腐でも切っているかのように、首から先の頭が、もぎ取れ、ストンと落ちた。
ゴロンと転がる首。
「きゃあああああああああああああああああっっっ!!!!!」
叫ぶマテリア。
マテリアの前に転がる首は僕のものだ。
僕は自分の首が転がるのをみている。
痛みはない。
ああ、僕の人生はここで終わったのだ。




