第8節 その3 伯爵の講義(召喚)
伯爵からの質問に答える。
それを聞いた伯爵は、なるほど、ふむ、など相槌をうっては、次の質問をしてくる。
それほどの難しいことではなく、地球や日本のことなど地理や歴史の話、また乗り物や会社、産業の話、後は政治の話などだ。
中学生程度の知識で分る範囲で応えたが、十分だったようで、それほど細かいことは聞かれなかった。
ただ、時折、
「それは、どういうものか、分らないので、聞き方を変えよう。」
とか「それは、さきほどと同じで機械でできているのかな?」など、全く知らないことがたまに混ざっているようだ。
おそらくこの世界には、電気で動く機械などの文明がまだ無いのだろう、そのあたりの説明が少し難しい。
しかし、伯爵に答えれば良いように訊いてくれるので、あまり困るようなことはない。
光介に合わせてくれているのだ。
一通りの質問が終わったのか、伯爵が言った。
「ふむ。
とりあえず、まずはこれくらいでいいだろう。
だいたいはわかった、また詳細を聞かせてもらう時があるだろうが、それは随時応えてくれ。
よいな?」
伯爵は話を続ける。
「まず、光介とやら。
分ったことを整理しよう。
違っていたら指摘してくれたまえ。
お前のいた世界、地球とこの世界ミラネルは、同じ星ではない。
太陽も月もあるが、おそらく違う太陽系だろうし、流れている時間も同じかどうか分らない。
この宇宙のどこかにお互いが存在しているのか、それともまったく違う宇宙、まあ宇宙自体の端がどうなっているか分っていないのだから、違う宇宙という表現があるのかどうかすら不明だが、まあとりあえず異世界としておこう。」
伯爵は世界地図のようなものと、宇宙についてかかれている地図のようなものを指さしながら説明を続ける。
「この異世界同士が繋がっているのか、それとも二度と繋がらないのか、またもし繋がったとしても、君がこちらへ来た時の同一時間軸上に繋がるかは分らない。
空間座標も同様だ。
つまり、もしかしたら君が生まれる前の世界の全く知らない国の上空5000メートルに放り出されるかもしれないというわけだ。」
伯爵は淡々と話を続ける。
「それはちょっと困りますね。」
光介はさすがに顔をひきつらせて感想を言ってしまった。
「ふむ。
とりあえず、今はわからないということだ。
要は、極端な話、たった今、このテーブルの上に穴があいて、以前君が来た時と同様の方法ではないが、あちらの世界に帰ることができるとしよう。
そんなことがあったとしても、そこに飛び込むのはあまり勧められんということだ。
そのあたりを含め、今後は私がいろいろと調査・研究させてもらう。
しばし待ってほしいところだ。」
「たしかにそうですね。
一か八かの賭けをする必要性があるわけでもないし、正直こちらの世界の方が僕にとっては居心地が良いし、既に居場所もあります。
マテリアもいるし。」
光介はマテリアの方を見ながら、頷いた。
マテリアは《元の世界に帰る》ことについての話になってから、不安そうな顔をしていたが、光介がそういうと、ほっとしたような顔を浮かべている。
髪の毛が少し逆立って見えていたのが、おさまったように感じたが、気のせいだろうか。
「ふむ。
まあマテリアについては君が心配せずとも私がいるので全く問題ないのだが。
ふむ。
とりあえず、あちらに帰りたいと今は思っていないということなのは分った。
将来どうなるかは誰にもわからないことだが、まずはよしとしよう。
正直、すぐに帰りたいと言われたら困っていたところだ。」といいながら、伯爵はマテリアの手についた汚れを拭いている。
どうも伯爵は、マテリアの世話を焼くのが好きらしい。
マテリアだからなのか、子供が好きなのかは不明だ。
後で、こっそりカルスさんに聞いてみよう。
光介がそんなことを思っていると、伯爵はまじめな顔をしてこちらをジロっと見て、話を続ける。
見透かされたかと思って少し焦った。
(人の事をこそこそ考えるのは失礼なことだし、するべきではないな)と自分に言い聞かせ、光介は伯爵の話に集中する。