第8節 その1 光介の変化
翌日。
目を覚ました光介に、事の次第を話すマテリアとクプラム。
光介は寝ている間に自分の肺がんが摘出されるとは全く思っていなかった。
無意識に病気のことを考えるのを避けつつも、具体的な将来を考えることなんて出来なかったし、したくもなかった。
《ありえない未来》としてリアリティが無かった。
そして、今も自分の生まれ育ったとは違う異世界で生活する中で、どこか夢のような、非現実的な、まるでゲームをプレイしているような、ある意味投げやりで、どこか無責任な感覚があった。
いつ終わってしまっても、それはどうということない。
しかし、そんな自分に未来という現実が存在することの喜びと不安、つまりは、とてもリアルな生の実感が少しずつ湧き出してくるのだった。
マテリアと一緒にまた暮らせるのかと思うと、ただ生きるというなんでもないことが、どんなに素晴らしいか生まれて初めて理解できた気がする。
そして、強く生きたいと思うのだった。
マテリアから伯爵の元へ行かねばならないことを聞いた光介は、どんなお礼をすれば自分はこの恩を返せるのか考えた。
無償の恩などあるはずがない。
不安もあったが、それはささいなことだった。
どうせ死という運命しかないこの人生に光をあててくれたのだ。
何を望まれようと自分にできることであれば、何でもする。
さすがに死ねと言われたら困るのだけれども。
しかし、光介の心の中は、光介の世界でもお手あげの病気を一晩で治す伯爵に、むしろ話を聞いてみたいという興味がずっと大きかった。
この世界は何かが違う。
文明は発達していないが、魔法のような不思議な力が存在している。
人間以外の種族もいる。
そして、自分が他の人間と少し違っていて、子供なのに、大人の魔族以上に優れた力を持っているようである。
この力を使って、こんな自分でもマテリアや伯爵の役に立てるのではないか、そんな期待にワクワクしていた。
そう、それこそRPGの主人公のように。