第6節 その3 骸骨兵士長カルス
(どうしようっ)と目をつぶっていたマテリアが驚愕することが起きた。
「おめえ、ここで何してんだ?」骸骨兵が話した(ように感じた)。
「あれ、しゃべったの?骸骨兵はお話できないのに、なんで?えっ?えっ?」
マテリアは混乱していたが、ありのまま思ったことを口走っていた。
「オラは話せるぞ。
他の骸骨兵は話は出来ねえが、オラは話せる。
すげんだろ?」
骸骨兵は自慢げにマテリアに話す。
表情がないので、そう感じただけかもしれない。
「すごい。
かっこいいね。
骸骨兵さん。」
マテリアは、怖かった気持ちもあったが、街の治安を守る骸骨兵は尊敬しており、しかも話ができたらいいなと常日頃思っていたため、かっこいいという感想に偽りはなかった。
マテリアを床に降ろしながら、骸骨兵は少し嬉しげに(これも表情がないのでわからないのだが)言った。
「そうだろ。
おめえは正直だな。
よしよし、降ろすてやるから、まずは何しているのか教えろ。
あとオラのことは隊長と呼べ。」
骸骨兵の隊長は、マテリアの腕を掴んだまま、そう言った。
マテリアは、どうすべきか迷ったが、領主様に大事な人を助けてもらいたいのでお願いに来た、と隊長に説明した。
そして先生から預かった手紙を見せた。
隊長は、カクカクと首を上下に振りながら、なるほどなるほど、とでもいうかのように相槌を打ち、手紙を読んでいる。
「クプラム子爵の印がある。
よし協力しよう。
ただ、オラには伯爵様を起こすことはできねぇ。
ただ、お前が何かするのを見逃がしてやるだけだ。」
そういって、マテリアから手を放した。
「ありがとう。隊長!」
マテリアは隊長の手を取ってブンブン握手した。
隊長は、マテリアにされるがままとなっていたが、左手で「伯爵の間」の扉を開けてくれた。
特に鍵が掛っていたわけでもないらしい。
「あの奥に横になっていんのが伯爵様だ。
もう200年も話してない。
オラも話したいだ。
起こさないように言われていたが、怒られてもいいから話したいだ。
おめえが起こしてくれんならそれでいい。」
マテリアは、隊長の気持ちがなんとなくわかった。
ずっとこの塔で200年も話をする相手もいないままで、同じような毎日を過ごすのはつらいだろう。
きっとご領主様のこと家族みたいに思っているんだ。
他の骸骨兵達も同じかもしれない。
そんな隊長の期待を感じながら、マテリアは伯爵の間に入って行った。




