第6節 その2 骸骨の兵士
もちろん門兵はさぼっていたわけではないのだが、本来門の左右から交差させて侵入者の行く手を阻む槍を掲げるはずのもう一人がいないため、その下側をするりと少女が走り抜けて行ってしまった。
門兵はしばらく少女が入っていた扉から続く塔の内側を眺めていたが、また元の守備位置に戻るのだった。
追いかける必要は無かった。
なぜなら扉を共に守っていた隊長が、巡回から戻ると同時に、少女の後を追い先ほど塔の中へ入って行ったからだ。
マテリアにとっては、扉が普段から開いているのか、それとも閉じているのかは知るよしもなかったが、ともかく思ったよりも簡単に建物に入れたことに驚きつつも、すぐに階段の裏に隠れ、追ってくるかもしれない門兵に見つからないようにしていた。
数分じっとしていただろうか。
マテリアが階段の裏の物陰から出てきても誰も彼女の存在に気づいていないようだ。
ホッとしたマテリアがあたりを見回すと、そこは塔の中心部と思われる吹き抜けのようだった。
この吹き抜けの内周を縫うように、らせん状に階段が最上階に向かっている。
塔の東西南北には、ときおり入口のような場所があり、いくつか部屋の存在を感じさせる。
マテリアはともかく最上階に向かった。
手すりのようなものはないため、もしよろめいたら、真っ逆さまに1階の床まで墜落してしまうため、壁に張り付くように歩いた。
ここまでかなりの距離を走ってきたため、疲れていたこともあるが、下をみるとあまりの高さとその手すりもない不安な足場のため、落ちるのが怖くて走れなくなる。
できればこれ以上は、上りたくない階段だった。
最上階の入口らしき場所までつき、中に入るとまた階段が上に向かっている。
今度は普通の幅の広い足場もしっかりした階段で上は屋上につながっているようだ。
マテリアとコースケは以前、領主について話をしたことがあった。
その不死の正体について、「自分の世界の話だけどね。」と前置きをしつつ、《吸血鬼》と呼ばれる夜行性の怪物ではないか?とコースケは話していた。
なので、マテリアは太陽が出ているこの時間に《吸血鬼》かもしれない領主が屋上にはいるはずがないと思ったが、それほど距離もないので、念のため上ってみた。
そこには、大きな祭壇のようなものがあるだけで、前後左右には、ただ柱しかない作りになっており、風が強く吹き抜けている。
吹き飛ばされそうになり、怖くなってすぐにもとの階段を降りて、ひとつ下の階の入り口へ向かった。
この入口から廊下がしばらく続いており、つきあたりの正面には、端正な造りの扉があった。
子供のマテリアでも領主の部屋と分かるその扉からは、何も聞こえない。
ノックをするか、しないか迷ったが、領主様に失礼があってはと、マテリアはノックをすることにした。
「・・・・・・」
反応がない。
念のためもう一度ノックするが、反応はやはりない。
ここで待つわけにもいかないので、思い切って扉をあけようと手を伸ばした時、両肩を大きな手でつかまれ、持ち上げられた。
マテリアが振り向くと、いつも街にいるのとは少し雰囲気の違う骸骨兵が、自分を持ち上げている。
じっと見られているマテリアは、驚きで声がでなかった。
骸骨兵自体は怖くはないと思っていたが、こうして自分の体を軽々と持ち上げられ、しかもとても良いとは言えないここまでの行動をこの骸骨兵がどうするつもりか見当もつかなかった。




