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第5節 その2 マテリアの決断

「先生・・・・・・」


自然と先生の手を握る。


先生の手はこんなにも細く、か弱い。


そして少し震えている。




「ああ、すまんのう、マテリア。


話はここからなのじゃ。


ご領主様は、希望を全て失くされておる。


そして、これまでどんな人間(魔族)が会いに行っても何も応えてくれはせん。


私ですら同じことじゃ。


そんなご領主様に、子供一人の声が届くとは思えぬ。


でも今はそれしかないのじゃ。


そして、あの白銀の塔へ向かうということは、なにもせずにただ行って帰って往復するだけでも2日はかかる。


それはのう、この子が願い届かず天に召されることになった時、おぬしがそばにいてあげられんということじゃ。


おそらく、明日には目が覚める。


その時おぬしはきっといろいろな話ができるはず。


その最後かもしれない機会を捨て、誰も果たせなかった小さな、とても微かな可能性にかけるのは、無謀なことかもしれん。


これはマテリア、おぬしが自分で決めなければならない決断じゃよ。」


先生は涙を拭きながら、おそらく私に、この厳しい決断を迫るつらさから泣いているのかもしれない。


きっと無理だと分っているけど、それが唯一の可能性だから。


悔いの残らないように。




「夜明けまでに決めなさい。


おぬしが寝ている間に、この子の容体とおぬしの事、そしてわしのお願いを、この手紙を書いておいた。


もしも、ご領主様が話を聞いてくれることになれば、きっと役に立つじゃろう。


わしはおぬしを信じておる。


どちらの決断をするにしても、それはきっと正しいことじゃよ。


自分の気持ちに正直になりなさい。


わしは先生として、今後もマテリアの味方じゃよ。


・・・・・・おぬしに話したいことはもうない。


お婆にはもうしんどすぎる。


寝かせてもらうよ・・・・・・」


そういうと、先生は私のベッドに横になった。


私も先生に添い寝するように横になり、先生にしがみついた。


眠さは全くない。


先生のいうことが本当なら、白銀の塔にむかっても何もできないだろう。


そればかりか、コースケとの最後の時を、伝えたかった色々なことを、ありがとう、さえいえない。




(でも、コースケの最後のために、ここに残ることが本当に正しいの?それはコースケのためではなく、私のためじゃないの?それにコースケのために最後の最後まで頑張り続けることが、コースケのためじゃないの?)


コースケが生きていられること。


その未来を考えれば、答えは決まっている。


後悔はしたくない。


それに以前コースケが話していた伯爵に関係あるかもしれないという不思議な話も思い出し、きっとなんとかなると感じていた。




(コースケの顔を一目見てから行こう)


そう思い、コースケを見ていると、出会ってからのことが走馬灯のように思い出される。




思いにふけっていると10分くらい経ってしまったのか、遠くの空が少し白みだしてきた。




行かなければ。


このままここにいても絶対後悔する。




「きっと領主様を連れて戻ってくるからね。


絶対それまで生きていて。


お願い。」


コースケの手を握りながら、思わずつぶやく。


先生の方を一瞥し、先生に


「後お願いします。」


と、おじきをして、テーブルの上の先生の手紙を鞄に入れて、家を出る。


最後にコースケをもう一度だけ見て、「よし」と自分に言い聞かせ、マテリアはまだ暗い街に駆け出していった。



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