第4節 その1 マテリアの苦難
コースケをなんとかベッドに寝かせ、吐き出した血を拭き取り、体も綺麗にした後、水分をとらせていると、ずっと苦しそうに咳き込んでいたコースケが、やっと眠りについた。
もう夜も更けている。
居ても立っても居られないマテリアは、泣きだしそうになるのを必死に抑えて、鍵をしっかりと閉めてから家を出た。
コースケを一人きりにする不安もあるのだが、このままだと死んでしまうような気がした。
姉のテレサの時のようになるのは絶対に嫌だという思いで、必死に走る。
今から急いで中央広場にあると思われる医者まで行っても、こんな夜更けに対応してくれるのだろうか。
もし出てくれても家まで来てくれるだろうか。
不安がマテリアの心にしきりによぎる。
泣き出しそうになるのを抑えて、いやもう泣いてしまっているのだが、一生懸命に中央通りを走り続けた。
(絶対大丈夫、コースケは強い。
魔族にもまけない強いお兄ちゃん。
絶対大丈夫。)
そう自分にいいきかせ走り続けた。
マテリアの呼吸はとっくに息切れしていて、これ以上走ったらマテリアが死んでしまうかも知れないと思われるが、走り続けた。
全速力でこんなに走っているのにまだ広場まで半分もつかない。
こうしている間にもコースケがまた血をはいていたらどうしよう。
いや、もっとひどいことになっていたらどうしよう。
どうしても悪いことばかり考えてしまうマテリアだった。
もう走れない。
足が痛い。
靴も脱げそうだ。
肺はすでに破裂しそうだし、お腹の脇も痛くてしょうがない。
これ以上走ったらきっと死んでしまう。
でも私が走るのをやめたら、もしここで歩いたせいで間に合わなかったら、一生後悔する。
マテリアは走り続けた。
もう限界はとっくに過ぎている。
意識が朦朧として、手足の感覚も麻痺してきた。
走るスピードもマテリアの気持ちを無視するように、落ちていく。
体がいうことを聞かない。
(ああ、このままではコースケが死んでしまうかもしれない。
私のせいだ。
もっと早く医者に診てもらうべきだった。
勝手につれていけば良かったのだ。
偶然会ったとか、たまたま巡回でとか言い訳なんかいくらでもできる。
コースケは怒るかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
自分がコースケに怒られても、こんな思いをするくらいなら、なんで、自分はそうしなかったのだろうか。
後悔が止まらない。
一回でもコースケに嫌われてもいいという勇気を持てれば、こんなことにならなかったかもしれない。)
マテリアはコースケの咳がどうしても不安だった。
初めてあったあの日からほとんど毎日咳をしている。
ときおり苦しそうにしては、家の外にこっそり出て行くときもある。
そんなコースケの優しさに見て見ぬふりして甘えていたのだ。
マテリアは走り続けた。
多分、いままで一番苦しい。
体も。
そして心が。