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第3節 その2 光介のマスター(仕事)

「おう坊主、さっそく来たな。


今日はどうした?この間のあれは良いものだと思っていたから少し素材用に残していたんだが、予想以上に良い商品が作れそうだ。


加工のしがいもあるしな。


ありがとうな。」


店主は相変わらず、一見そっけない態度と裏腹に優しい言葉をかけてくれる。




「はい。


おかげさまで助かっています。


実は、その、僕ここで、は、働きたいんです。


や、雇ってくれませんか!」僕は思い切って早速店主に相談した。




店主は悲しげな顔でこちらを見る。




「それは無理だ。


俺もお前みたいな頑張っている坊主は好きだし、雇ってやりたいよ。


しかしな、この不景気な世の中だ。


とても道楽で人を雇うような余裕はねえんだ。


分かってくれ。


すまんな。」


店主は本当に申し訳なさそうに僕にいうと、また何かを磨く作業に戻ってしまった。


これ以上話すことはないと言っているのかもしれない。


僕は大事なことを伝え忘れていたし、渡し忘れている。




「僕、役場のおばあさんに、この紹介状をもらいました。


力には自信があります。


なんでもやりますので、どうか雇ってくれないでしょうか?給金は安くてかまいませんし、役に立つと思ったらいただければそれまでただ働きでもいいんです。


どうかお願いします。」


僕はここであきらめてしまったら、もうこの後仕事なんて一生できないと自分に言い聞かせ、


精一杯お願いした。


こんな積極的な自分は我ながら初めてだ。




「何?市長さんが?どれどれ。


・・・・・・ふむふむ。


なるほど。」


しばらく、紹介状と僕を交互に見た後、店主は僕に言った。




「なるほど。


良く分かった。


もし本当にお前がそんなに力持ちなら、この店の前においてある鉱石の塊がある。


それを店の裏手の精錬所まで運べたら雇ってやろう。


やってみるか?」


店主は、今度は打って変わって嬉しそうに、また挑戦するかのように僕に、そんな就職試験を依頼してきた。




「もちろんです。


やらせてください!」僕は即答して、すぐに店を出て行った。




 店の前には野ざらしになった大きな石が3つほど置いてある。


どれもかなり重そうで、とても子供の僕には持てそうもない。


しかし、この間の力が本物ならマテリアのいうとおりだとすると大人5人分の力があるはず。


挑戦するしかない。


とはいえ、一番小さな石を持ち上げてみる。


すると思ったより重くない。


それでも20kgはあろうか。


子供を一人持ち上げるぐらいだ。


なんとか休み休み精錬所まで運びこんだ。




「店主さん、運びました。


でも一番小さな石ですが・・・・・・もし一番大きなやつを運ぶなら、時間はかかるかもしれませんが、なんとかがんばりますので、もう少し時間をください。」


僕はちょっとズルをした自分を恥ずかしがりながら店主に報告した。




「何一番小さい奴だと?どれ?」


店主は少し不機嫌そうに、精錬所へ向かった。




「なんてことだ、確かにこれは一番小さい石だ。


そして一番重い石だ。」


びっくりした店主は僕の顔をまじまじと見ていった。




「えっ?」


僕もびっくりした。


まさか一番重い石が一番小さい石とは思わなかった。


他の石は大きすぎて、持ち上げてみようとも思わなかったのに。


確かに鉱石などの物質には密度があり比重が違う。


そういうたぐいのことだろう。




「目の前で見せてくれ。


疑って悪いが魔族の大人でも持てるかどうかという重さだぞ。


自分の目で見てみたい。


持ち上げるだけでいいから。」


店主は僕にそういうと、もちろん僕は、今度は自信を持ってその石を持ち上げる。




「はいっ、どうでしょう!」


移動しないでただ持ち上げるだけならさっきより簡単だ。


ちょっと嬉しくなってきた。




「おおおおっ。


本当だ。


凄いよ、お前。


びっくりだ!」


店主は本当にびっくりしている。




「じゃあ、雇ってもらえますか?店主さん。」


「おお明日から来い。


朝は九時から夜五時までだ。


残業代は応相談な。」


店主も僕も微笑んだ。




「やったー!」思わず叫んでしまう。




「ただし、おれのことはマスター(店長)と呼べよ。」


店主、いやマスターは僕にそうして最初のオーダーをくれたのだった。





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