第2節 その1 暴力
三人組の一番前にいた男が聞いてもいないのに、この家に来た理由を話し出した。
「俺たちはさ~、特に仕事してないあぶれもんなんだけどさ~、この街は骸骨共がウロウロしていやがるからさ~、押し込みかけるとすぐにつかまっちまうんだよな~。
こうやって来客のようにノックしてしゃべっている分には問題ないんだけどさ~。
抵抗したり、大きな声は出すなよな~。
なんでか、俺にはわからんがあいつらすぐ飛んでくるからさ~。」
男はニヤニヤ笑いながら、話を続ける。
「なんで、こんな汚い家にわざわざ来たか不思議だろう~?おれたちいつも役場(通行証の取引をしている老婆のいるところ)の前でたむろしているんだよね~。
そこで街を出ていくやつらがいたらさ~、その家をあらさがしするんだよ~。
だってよ~。
その家の主はさ~、たいてい、いなくなってんだ。
だから骸骨兵もこないんだよね~。
割と金になるものや食糧なんかもさ~、まだ残っていたりするんだよな~。」
イライラする話し方をする。
マテリアは、その話をきいて、
「じゃ、この家をこの間荒らしたのもおじさんたちなのっ?」
彼女の怒りが後ろからみていても分かる。
ただ、その怒った声には、少し泣きそうになった時のマテリアの声が混ざっていたような気がした。
「そうだよ~。
なんでわかったのかな~。
フハハハ。
そんでさっき、通行証を取引しているガキがいたから後ろからつけて行ったらさ~、この間出て行った嬢ちゃんと一緒にさ~、食糧大量に買いこんでるじゃんか~。
こりゃ少し、お裾分けでも貰おうかと思ってついていったんだけどさ~、ずっと骸骨兵がいるだろ?結局家の前でやつらがいなくなるの待ってたんだよね~。
そういうことだから、お前らの食糧分けてくんないかな~?もちろん大人3人だから全部欲しいな~。」
(ああ、この世界にも悪いやつはいるんだ。
痛い思いをさせられるんだろうか?それに、せっかく手に入れた食糧がとられてしまう・・・・・・。
もう駄目だ・・・・・・。)
僕の体はもうガクガクと震えている。
玄関の方を恐くて見れない。
ベッドに潜りこんでしまいたい気持ちになっていた。
マテリアも事態の察しがついたのだろう、呆然と立ち尽くし、もうほとんど泣き出す一歩手前だった。
「あとさっきのガキ、お前金も持っていたろ?」
男は急にドスの利いた声をだして、奥にいる僕に向かって言った。
怖い。
ああ全部何もかもとられてしまうのか。
きっと、そのあと、殴られたり痛いことされる。
そんなのは嫌すぎる。
お金はもうあきらめるか。
痛いのだけは嫌だ。
逃げだしたい、聞きたくない。
早く終われ・・・・・・。
僕も泣きそう顔でうつむくだけだった。
「それももらってやるから早く持ってきな。」
男は予想通りの言葉を、さも当たり前のように僕に向けて発した。
ああ、もうだめだ。
やはりどの世界でも僕はこんな思いをしなければいけないのか。
もしかして、あの布団をかぶって生活する日本のあの家の方がましかもしれない。
もう嫌だ。
早く布団にくるまりたい。
「だめだよ、そんなの。
せっかく買ってきたのに。
これは私たちが一生懸命手に入れたんだから。
おねがいだから嫌なことしないで。」
マテリアは大声で叫ぶ。
しかし家の中での会話は、警らしている骸骨兵には届かない。
買い物途中でマテリアから聞いたのだが、公共の場以外でのごたごた(例えば夫婦げんか)には仲介しないのが彼らの基本方針らしいのだ。
だから気易くドアを開けて家に不審者を入れてしまった僕らも悪かったのだ。
もう駄目だ。
家の奥にこれ以上入れないように、大の字になって男の前を遮ろうとしているマテリアに、男は、
「ああ、もう、うっとうしいガキだな。
どけっ!」
といってマテリアを平手で突き飛ばした。