第1節 その2 帰宅
門の外で、コースケは門の飾り付けや街の外観を眺めて過ごしていた。
銅製の門とその飾り付けは、綺麗に調金され一つ一つが芸術作品のように思われた。
何百年も前のものなのだろうか、それらはとても古く、ところどころ錆びてはいるが、しっかりとした石の城壁と組み合わさり、荘厳な、そして来るものを阻む立派な城壁と門として存在していた。
そんな感じでマテリアを待っていると、コースケが思ったよりもずっと早く彼女は戻ってきた。
老婆から聞いた段取りを慌てた様子で話している。
マテリアの説明を黙って聞いていたコースケだったが、その計画にはどこも困難と思われるようなこともないので、コースケもさっそく行動に移したくなった。
マテリアに自分の喜びを伝えたくなって彼女を抱き上げようかと思ったが、そんなことをして嫌われたくもないので、伸ばしかけた手を自分の頭の後ろに手を組むことにしてごまかした。
不思議そうな顔するマテリアだったが、とりあえず、二人で教卓のあるところまで戻ることにした。
教卓までもどると、姉を運んだ薪運び用の車を台車がわりに、コースケは難なく門まで運びこむと、マテリアは自分の通行証をコースケに渡した。
コースケは門をくぐると、マテリアに言われた場所で、言われたとおりの老婆を確認すると、さっそく自分の名前を伝え、老婆から教卓の買い取り商の居場所を教えてもらった。
案外遠くはないし、一本道だ。
看板のマークも教えてもらったので、きっといける。
「またここに戻ってきます。」
と老婆に伝え、コースケは、買い取り商の店までゴロゴロと教卓を運ぶ。
買い取り商の店の並びには鍛冶屋や宝石がついたアクセサリーを売る店が並んでいた。
ちょっとした市場なのだろうか。
買い取り商のドアをノックし、中に入ると、人間にしては大柄な(魔族の大人は人間より少し大きいと思われる)男が久々のお客が子供だったことに残念そうな顔を隠しもせず、
「いらっしゃい。」
と声をかけてきた。
外にある教卓を見てもらうため、店主に店の外へ出てきてもらい、品定めをしてもらった。
店主は、
「なんだこりゃ?」
といいつつ、素材が鉄製であること、大きさや仕上げもよいことから、サービスして買い取るよと、上機嫌に言ってくれた。
そして自分は、
「子供でも値段をごまかしたりしないまじめな商売をモットーにやっているから、また何か手に入ったら持ってきてくれ」と優しい声でコースケの頭をなでながら、銀貨と銅貨が入った銭袋をコースケにくれた。
袋はサービスとのこと。
「どうもありがとうございます。
ゴホッ、ゴホッ、助かりました。」
コースケは本心から思ったことを伝え、老婆のもと、そして、マテリアの元へ急いだ。
店主は明らかにこの街の人間ではなく、病弱そうな子供が何か頑張っている姿を見て、励まさずにはいられなかった。
「ああ、またいつでも来いよ。
商売以外でも困ったら相談にのってやるから。」
と言いながら仕入れの終わった教卓を店に運び始めていた。
老婆のところに戻ったコースケは、通行証に必要な銅貨を渡し(ほんの3枚だった)、マテリアの通行証を受け取った。
そうして、2人はこの街へ正式に一緒に入ることができるようになったのだ。
教卓は銅ではなく、この国ではそれほど多くない鉄製であったため、割と高値で売れた。
鉄は、農耕用の道具や武具として、利用価値は多い。
この国は鍛冶職人も多く、後で店主から聞いたのだが、買い手もすぐに見つかったらしい。
およそ1カ月分の予算を手にした2人は、生活に必要な日用品と食糧(この国では現状食糧事情が悪いため、その他の日用品と比べかなり高い値がついている)を買い込んだ。
強盗にでも襲われたら大変なので、念のため巡回している衛兵の後ろを歩くように、帰路を急いだ。
食糧店を出たあと、何者かにじっと見られているような気がして(実際食糧を大量に買っていれば、この街ではねたみの対象にもなる)余計に慎重になっていたが、結果的にあっさりと家まで辿り着いた。
自分たちの家の中に入りドアに鍵をかけた後、はぁ、とため息をつきつつ、コースケとマテリアが日用品と大量の食糧を家に入れ込んだ。
どっと疲れが出たこともあるが、家に着いて安心したのか、散らかった部屋の一部を押しのけながら、なんとかスペースを確保して、横になった。
マテリアは、
「疲れたねぇ~」、
「ほんとに疲れたねぇ」
などなんども同じことをコースケに向けてなのか、それとも頑張った自分のためなのかよくわからないが繰り返し呟いている。
コースケも
「ほんとだねぇ」、
「そうだねぇ」
なんて、やはりはっきり返事をしているわけではないのだが、自分の感想も全く同じなので、なんとなく会話が成立しているような状態になっていた。
そんな感じで30分ぐらいが過ぎた頃、マテリアから何も声が聞こえなくなったので、コースケがマテリアの方を伺うと、スースーと寝息が聞こえてくる。
どうも寝てしまったらしい。
おそらく疲れと家に戻った安心感からそのまま寝入ってしまったのだろう。
別に何か予定があるわけでもなし、そっとしておくことにした。
欠伸した人を見ていると自分も欠伸が出ることがある。
眠気というのは伝染でもするものなのだろうか?コースケもそんなマテリアを見ている内にまどろんでいたが、いつのまにか寝てしまった。
ノックの音がした。




