7 マルチナ・出会い 4
周囲の酸素を取り込みながら高温で燃焼して局地的な上昇気流が生じているのだろう。
竜巻の内部は秒速百メートル以上に達する炎の旋風であり、取り込まれれば焼き殺されるか、高温のガスや炎を吸い込み肺や気道を損傷して苦しみながら窒息死にいたる。
一旦、取り込まれれば生き残ることは不可能であろう。
炎の竜巻は夜空をのたうちまわりながら周りの空気とともに取り込んだ全てのものをバチバチと音を発てて焼いていく。
あたりは昼間のように明るく照らされた。
ベイズは熱風を受け、顔をしかめながら、マルチナを睨んだ。
「許しを請うならこれが最後だぞ」
「許しを請うのはそっちでしょ。私悪いことしてないし。まあ、私は命乞いされても助けないけどね」
マルチナは炎の竜巻を目の前にしても態度一つ変わらない。
相変わらずふてぶてしく、笑みを浮かべていた。
「やれっ」
マルチナの態度に覚悟を決めたベイズは声を上げた。
「ファイヤートルネード!!」
魔道士たちの叫びに呼応して、巨大な炎の竜巻がマルチナに襲いかかる。
マルチナは身動き一つできないまま炎の竜巻に飲み込まれた。
一瞬にしてマルチナの姿は炎の中に消えた。
炎の竜巻はグオーと竜の叫び声のような爆音を響き渡たらせた。
「手こずらせやがって……」
ベイズはマルチナを呑み込んだ炎の竜巻を眺めつつ額の汗をぬぐい、唾を地面に吐いた。
「殺しちゃって、これからどうするんですか?」
さきほどの魔道士がベイズに尋ねた。
「仕方ねぇだろ。黒焦げになった死体でも持って行くさ」
法王庁への護送品。たとえ黒焦げであろうと途中で投げ出すわけには行かない。
坊主達には文句を言われるだろうが、知ったことじゃない。
逆に、割り増し金を請求してやる。
ベイズは開き直った。
時間にして一〇分ほどであろうか、マルチナを呑み込んだ炎の竜巻は次第に衰え出した。
それに従い周囲は再び暗くなり、点々と散在する木々に燃え移った炎が松明のように暗闇を照らすのみとなった。
そして、炎の竜巻が消え去るとそこには黒く丸い物体が一つ残っているのみであった。
魔道士の一人が黒い塊を眺めながら、ベイズに問いかけた。
「はぁー。こんな燃えカスで礼金もらえますかね?」
「俺に訊くな。元はといえばヒューイのせいだ」
ベイズが悪態をつき、黒い物体に近づこうとしたとき、かすかに動いた。
それに気づき、ベイズは足を止める。
目の前で黒い物体の中央部分が裂けるのを、まさか!といった表情で声もなく呆然と眺めた。
裂け目は徐々に広がり扉のように左右に開いていく。
その隙間からマルチナの白い肌が現れた。
扉のように見えたものは漆黒の羽であり、羽はマルチナの背中から伸びていた。
マルチナは両翼を完全に開き、片膝をついた状態からゆっくり立ち上がった。
「ファイヤートルネードを翼で防いだだと……ありえん」
言葉を失っていたベイズがかろうじて|呟く。
「言ったでしょ、あんた達はみんな死んじゃうんだって」
うろたえる魔道士達を尻目にマルチナは髪をかき上げた。
男達に小さく呟く
「下種が」
マルチナは黒翼を一はばたきさせる。
ふわりと宙に浮かび、男達のすぐ前に降り立った。