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5 マルチナ・出会い 2

2018年12月22日、加筆修正しました。

 太陽が地平線にかかり辺りが暗くなりかけた頃、ユージ達を乗せた牢馬車は道を少し外れ、背の低い木々が点在する草地に止まった。

 牢馬車に続いた数人が馬を下りると、手綱を近くの背の低い木に結わえ付け、野営の準備を始めた。


 彼らは三つの冒険者パーティーから成る混合部隊で、前衛として剣士二名に魔道士五名、それに後衛として修道士と修道女が一名ずつといった構成である。

 彼らは高位魔族であるマルチナ輸送の護衛部隊として雇われたのであった。


 火がおこされるとすぐに肉を焼く匂いがユージ達のいる荷台にまで入り込んできた。

 ユージは空腹に絶えきれず唾を呑んだ。ユージも丸二日飲まず食わずである。


「ねー、こっちの分はないの?」


 マルチナが大きな声を上げた。

 すると、これに応えるかのように、一人の男が肉を片手に立ち上がると荷台に近寄ってきた。

 それを見てマルチナも立ち上がり格子に体を寄せる。            


「私の分?」

「誰がやると言った?」


 男は下品に笑った。


「なら、あんたの欲しいものと交換するのはどう?」


マルチナは上体をのけぞらせて、胸元を男の方に突き出す。


「おい、よせっ、ベイズ。そいつはサキュバスだぞ。ちょっとでも触れたら精気をみんなもっていかれて干からびるぞ」


火のそばに座っていた別の男が叫んだ。


「わかってるよ。ちょっとからかっただけだ」


男は答えて、これ見よがしに肉をかじりながら、火の側に戻っていった。


下種(ゲス)が」


 遠ざかるベイズの背中に向かってマルチナが小さく吐き捨てた。


 ベイズに声をかけた男はヒューイという名の魔道使いである。魔道士のヒューイと剣士であるベイズは長年コンビで冒険者として仕事をしていた。

 今回は三組の冒険者パーティーが混成部隊として組まれていた。年長者であるヒューイとベイズのパーティーがリーダー格として部隊をまとめているのだった。


「いいかベイズ、こいつを無事に帝都まで届ければ、礼金がたんまり入るんだ。そしたら女なら好きなだけ買えばいい」

「わかってるって、ヒューイ。サキュバスに手を出すほど俺もバカじゃねーよ」


 ベイズは肉をかじりながら応えた。


「帝都に着いたら、いっぺんに三人買ってハーレム遊びだ。昔らやってみたかったんだ」


 ベイズの下品な笑い声が響いた。


「しかし、今回の遠征はアタリだったな」

「ああ。危険な前線は貴族の騎士団が引き受けてくれたからな。俺たちは楽な掃討戦中心。簡単に魔核集めができた。おまえ、金貨三〇枚は稼いだろ?」

「いやいやお前には負けるよ。スプリーム級の奴らが進む後には中位魔族どころか高位魔族まで死体になって転がってたからな。お前も超レアな魔核ゲットしたろ、とぼけても無駄だぞ」

「それはお前もだろ」


 たき火の回りで男たちが笑い声を響かせた。


「それに夜は捕虜にした魔人の女どもを犯し放題ときた」

「やっぱり、おまえは女ばっかりだな、ベイズ」


 ふたたび暗い平原に男達の笑い声がこだました。


「ところで、ヒューイ。あのサキュバスそんなに強いのか? とてもそんなふうには見えんぞ」


 ベイズの問いにヒューイは今回の護送の仕事を依頼してきた上級魔道士から聞いた話を披露した。


「なんでもかなりの魔導耐性があるらしく、プラチナ級の魔道士でも隷属化できなかったらしい」

「そんなやつがよく捕まったな?」

「いや、それが結構あっさり捕まったらしいぞ。おそらく攻撃能力は低いんだろうな」

「で、法王庁に送って研究対象にするんだと」

「研究対象? 魔導の研究でもするのか?」


 剣士であるベイズは魔導のことはチンプンカンプンだ。

 ヒューイが笑いながら続けた。


「な~に、やってることは司祭達がオモチャにするだけらしいぞ」

「オモチャ?」

「司祭は戒律で女とやれないだろ。だから代わりに魔人の女を犯すんだよ。魔人は人間じゃないからやっても戒律に反しないんだとさ。都合のいい解釈だよ」

「神の言葉を伝えるとか偉そうにしてるけど、俺たち以上の俗物だな」


 魔道士達は笑い声を上げた。


「で、一緒にいる小僧はエサなのか?」

「ああ、あまりに貧弱なんで、どの奴隷商も買わなかったんだと。仕方ないんでサキュバスのエサとして一緒に放り込んだらしい」


 なるほどと頷きながら、ベイズが荷台の方に目をやった。


「それにしても坊主にはもったいない、いい女だな」

「何度も言うが、ベイズ。妙な気を起こすなよ、大事な荷物だ」

「心配するな。こうみえて俺はモテるからな帝都に帰れば女なんて選び放題だ」

「娼館の女を選んでるだけだろ?」

「ほっとけ」



 ベイズのどこまで真実か分からない武勇伝が尽きた頃、あたりは暗闇につつまれた。

 新月のため月明かりもない。唯一、たき火の炎がその周囲を照らすのみであった。

 

 その時、ひとりの魔道士が老婆者に近づいてきた。護送メンバーの唯一の女、修道女であった。

 ユージは、せめて水をと懇願した。

 しかし、修道女は冷たい目で眺めるのみ。


「ふしだらなサキュバスと、ザコ魔人、いいコンビね」


 小さく吐き捨てる修道女にマルチナが皮肉を返す。

 

「自分がモテないからって、他人に当たらないでよね」

「負け犬の遠吠えか?、どうせお前たちは帝都に着けば殺されるんだ。一方、私は大金を得る」

「で、男でも買うの?」


 マルチナも負けずに言い返す。

 ユージは女同士の喧嘩に小さくなるばかり。

 修道女はマルチナを睨みつけ、焚き火の方へと戻っていった。


「何しに来たんだろ?」

「さあ? 退屈だったんじゃない?」



 冒険者たちも寝たようで話し声は聞こえなくなった。ユージも眠気が空腹感に勝り、ウトウトし始めた。


「……」


 荷台の外から魔道の詠唱のようなつぶやきが耳にとどき、ユージは重いまぶたを開けた。

 しかし、次の瞬間、ユージは体が硬直し、声も出せなくなった。

 

 牢の扉がきしむ低い音を立てた。黒い影が扉を開けて荷台に入り込み、マルチナの方へ近づいていった。


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