4 マルチナ・出会い 1
~~~~~~ 2日後 ~~~~~~
ユージの目の前で胸の大きな膨らみが馬車の振動に合わせて揺れていた。
牢馬車の檻にユージは魔人の女と向かい合って座っていた。
ユージは兵士に捕まった後、方々たらい回しにされた後、狭い牢馬車へと放り込まれたのだった。
狭い荷台の中、ユージが正面を向く限り視線は自然と女の豊かな胸にいく。
しかも戦闘によるものなのか女の黒い服は胸元が大きく裂けて、乳房が半分露出していた。
車輪が小石に乗り上げ荷台が大きく揺れると、その反動で乳房がこぼれ出しそうになる。
そのたびにユージは目線は吸い寄せられるように女の胸にいってしまうのだった。
高校二年生の健康な男子なら仕方ないことなのだが。
「さっきからどこを見ているの?」
透き通るような白肌に垂れた長い黒髪をかき上げて、黒い服の女がユージに問いかけた。
怒っている感じではない、むしろ、からかっている雰囲気だ。
女は18歳前後だろうか、ユージよりは年上だった。
仕草の一つ一つからして、自分が美人であることはよく分かってます、といった余裕が感じられた。
一方、ユージは彼女いない歴=年齢。
というか、同年代の女子ともほとんど話をしたこともない、すでに二次元へ逃避済み。
見られたくないなら胸を隠せよ……
ユージはそうと思いならがも、慌てて視線を胸から下へと移した。
しかし、今度は黒いスカートの裂け目から女の白い太ももが目に飛び込む。
「今度は、脚?」
女はユージを見てにやりと笑った。
「そ・れ・と・も……、もっと奥の方が気になる?」
そう言って、女はわざとゆっくり脚を組み替えた。
ユージは、かーっと耳が熱くなるのを感じ、あわてて目線を上げた。
「やっぱり、胸?」
慌ただしく視線を動かす男を見て、女は声を上げて笑った。
「で、君、名前は?」
「裕次郎です」
「ユージロン・デース?」
「ユ・ウ・ジ・ロ・ウ」
「ふーん、変わった名前ね。この辺じゃ聞いたことがないわ」
自分から尋ねた割には、さして興味になさそう。
「呼びにくいからユージね。ちなみに私は、マルチナ・ヴァン・シュミット。特別にマルチナって呼んでいいわよ」
いやいや勝手に人の名前決めないでくれ。こっちのヤツらはみんな同じだな。
ユージは抗議しようと頭の中で言葉を探す。
しかし、マルチナは文句を言う間を与えず質問を続けた。
「で、君、いくつ?」
「あっ、一七です」
「ふーん……」
沈黙が続く。
気まずい時間が流れるも、ユージは気の利いたことを言えるようなリア充ではない。
ふと、マルチナは独り言のようにつぶやいた。
「君……、なんて言うか魔人っぽくないわね。見た目はごく普通の魔人の男なのに」
実は、自分は異世界から召喚され、魔人に転生した元人間の高校生なんです、と説明すれば分かってもらえるだろうか……?
ユージは考え、沈黙した。
その時、マルチナか何か思いついたように手を打った。
「あっ、もしかして人間に育てられたの? たまにいるでしょ、魔人の少年を身の回りに置く変な趣味の人間が」
「変な趣味?」
「同性幼児性愛者? みたいな」
マルチナはユージを変態オヤジに飼われていた男娼とでも思っているらしい。
流石にその誤解だけは解いておきたい。
「いや、そうじゃなくて、実は自分は人間の高校生で、いきなりこの異世界に送られてきて、気づいたら魔人になっていたんです」
「こうこうせい? いせかい? なにそれ?」
マルチナの全く意味不明と言わんばかりの表情に、ユージは脳をフル回転した。
「いや、ですから、高校生というのは、小学校、中学校とあって、その次に行くところで……、あっ、でも義務教育じゃないから、みんなが行くわけでもなくて……」
「ああっ、もういいわ。要するに、人間の学校にいたってことね」
マルチナは面倒くさそうにユージの説明を遮った。
やっぱ、そうなると思ったよ……。
ユージは自分のコミュ力不足を再確認して、ため息を付いた。
ユージが三日前にこの世界に転移し、兵士に囚われた後に目にしたものは甲冑を着た剣士や貴族。
しかも、魔導と呼ばれる魔法の様な不思議な技を使う魔導士とかいう職業もあるらしい。
まさに剣と魔法の世界であった。
しかし、ユージの意識はジーヴルへの申し訳なさと自己嫌悪で満たされていた。
それに加え、いきなり放り出された異世界では将来の展望などなにもない。
食欲はなく、出るのはため息ばかりであった。
マルチナは、再びため息を付いたユージに絡み始めた。
「ところで君、さっきからため息ばかりだけど、なんかあった?」
大きなお世話です!
ユージは思うが、初対面の女性しかも美人にそんな風にキッパリ言えるはずもない。
お茶を濁すように答える。
「別に……」
「ちょっとぉ、人が親切に相談に乗ってあげようって言ってんのに、その態度はどういうこと?」
「あっ、いえ。……今更どうしようもないことなんで」
相談とか間に合ってます。っていうか、あんたも牢に閉じ込められてるだろうに。人の相談聞いている場合かよ。
ユージは心の中で毒づいた
「あーっ。今、自分も捕まってるくせにー、とか思ったでしょ? 言っとくけど、私は自分の意志でここにいるんだからね」
ハイハイ、自分からね。だいたい牢屋に入って護送されたいヤツなんてこの世にいるわけねーだろ。
ユージは無視を決め込んだ。
しかし、返事をしないユージにマルチナはしつこく絡んでくる。
「なんか、すごい落ち込んでるみたいだから、私が元気出してあげよっか?」
ふと気づけば思い出すのは最期のジーヴルの顔ばかり。
死にたいくらいの自己嫌悪に陥っているのだ。何したって元気なんかでるわけない。
「ほっといて下さい」
なげやりな返事をするユージに対して、女がにやっと笑った。
「おっぱい見る? 元気でるよ」
「えっ」
ユージの目線が思わずマルチナの胸元にいった。
「嘘っそー」
呆然とするユージに女は楽しそうに笑い声を上げた。
「でも一瞬元気出たでしょ?」
マジでほっといてくれ……。
ユージの体全体をどっと疲れが襲った。