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3 ジーヴル・敵 3

2018年12月23日、大幅に修正しました。

「おい、そっちになんかいるぞ」


リチャードはユージの声がした方、まさにユージ達が小さくなり隠れていた方を剣で指し示す。


「地下迷宮の最深部にいるヤツだぞ、用心しろ! リチャード!」


ヘンドリクスが警告した。


「大丈夫だ。魔導反応は大したことない。こいつならソフィーでも殺せる」

「馬鹿にしないで。後衛の私だって中級レベルの魔族だって問題なしよ」


ソフィーが不満そうに腕を組んで答えた。


 出口は一つ。しかし、奴らに見つからずにそこまで行くことは不可能。

 最弱の二人が最高の冒険者パーティーに勝つ見込みは万に一つもない。

 まさに絶体絶命。


 召喚されたばかりなのに、ここで殺されたらリスポーン・キルもいいところ。ゲームならリス・キルはマナー違反で通報だ。

 しかし、これはゲームではない。やられたらそこで終わり。

 ユージは自らの不運を嘆いた。


 リチャードがゆっくり近寄ってくるのを確認し、ジーヴルが低くつぶやく。


「私がヤツらの注意を引きます。ユージ殿はその隙にお逃げください」

「あんた戦う能力ゼロだろ。ど素人の俺が見てもあんたが叶う相手じゃないぞ」

「別に勝とうなどと思っておりません。ユージ殿を逃がせればそれでよし」

「でも、あんた間違いなく死ぬって」

「陛下を看取り、もはやこの世に未練はありません。今、私にとって何より大切なことは陛下との盟約を守ることです」


 死が大したことないかのようにジーヴルは答えた。


「いやいや、でも魔王もう死んだんだよ。約束した相手がいないんだから、盟約もご破算だろ」

「盟約を守るのは相手のためではありません。自分自身の誇りのためです」

「誰も見てないし……。俺、誰にも言わないよ」


 ジーヴルはユージの目を見つめ、そして、微笑んだ。


「ユージ殿は優しいですな」

「俺をこれからも支えてくれるんじゃないの?」

「それは、また別の誰かに託しましょう。臣下とは与えられるものではなく、自ら獲得するものです。ユージ殿ならきっと私以上の臣下を得られるでしょう」

「そんなの分かんないだろ……」

「私は予知能力はありませんが、勘の方はなかなかですぞ」


 ユージに向けニヤッと笑う。


「最後にあなたに会えて新たな夢と共に逝けることを感謝しますぞ、ユージ殿」

「……」

「よき魔王となられよ。あなたならきっとできます。あとハーレムも」


 ジーヴルは立ち上がるとユージを後ろに隠すように前に出た。

 そして、ジーヴルは両腕を大きく広げてユージをリチャードらの視界の外へと追いやるため自らは右側へと弧を描くように移動する。

 ユージから十分距離を取るとリチャードに立ち向かい、仰々しく叫んだ。


「我が名はジーヴル。魔王陛下の尊厳を汚すお前達を許せようか!!」


 ジーヴルが命を捨てて、ユージを逃がそうとしている。

 ユージは自分が生き残るためジーヴルをおとりにしようとしている。

 

 ――仲間を助けるためならどんな危険も(いと)わない―― 

 

 部屋に引き籠もって熱中した漫画やアニメの主人公のように、自分もそんな風に活躍することを何度も夢想していた。

 しかし、自らの死の恐怖の前に、そんな甘っちょろい夢想は跡形(あとかた)も無く吹っ飛んでいた。


 ……ゴメン。

 ユージは心の中で呟いた

 

 冒険者らの注意がジーヴルに引きつけられていることを見て取ると、ユージは静かに入口へと動き出した。



「じーさん、頭大丈夫か? 痴呆で自分の実力すら分からなくなったか?」


 リチャードが剣を構えることすらせずジーヴルを見て笑う。

 ジーヴルは懐から短剣を出すと両手で握り込みリチャードに突きつけた。


「死にたいなら殺してやる、さっさと攻撃してこい」


 そう言うと、リチャードは面倒くさそうに剣を抜いた。

 しかし、ジーヴルの目的はあくまでユージを逃がすために相手の注意を引くこと、そして少しでも時間を稼ぐこと。

 そのため、ジーヴルは短剣を突きつけたまま動かない。


「おいおい、コッチは武士の情けで待ってやってんだから、さっさと攻撃してこいよ」

「ほざけ。ワシが怖いのか? 若造」

「あほか? マジで死にたがりは面倒だ」


 リチャードは溜息をつくと剣を構えた。そして、一歩踏み出す。

 それを見てジーヴルは一歩下がる。また、リチャードは一歩踏み出す。

 リチャードに押されるようにジーヴルは下がり続けるが、ついに壁際に追い込まれた。


 ユージは目を逸らし唇を噛んで入り口に走った。負の感情が腹の中に渦巻く。重たい何かが残った。

 しかし、感傷に浸っている場合ではない。

 ユージがすぐに入口を抜け1つ目の角を曲がった。


 しかし、次の瞬間、あまりの光景に絶句した。


 そこには人間の兵士の集団が立っていた。

 ユージは一歩も動けないまま兵士達に確保された。


  自分が助かるためにジーヴルを見捨てておきながら……。

 最低の選択に最悪の結末。

 このまま死んでしまいたいくらいの自己嫌悪がユージを包む。



 兵士達はユージを両脇から抱え込み隊長に問う。


「どうしましょう?」

「まあ、ザコでも奴隷商に売れば小遣いにはなるだろ。おまえらにやる」


 隊長らしき男はそう言うと、ユージは地上へと連行した。


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