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24 辺境の町・新しい仲間 11

 見渡す限りの草原が広がる。それが意味することは一つ。

 ユージ達はいつの間にか森を出てしまった、ということである。


 致命的なミスであった。

 予想外に森の外に出てしまったことは、マグナスが現在地を見失っているということを意味する。

 現在地すら分からないのに、再度森の中に戻ってもオークの防衛陣地にたどり着くことは不可能である。


 もう間に合わない……

 ユージは愕然とした。オーク達への奇襲攻撃を許すだけでなく、上位魔人との接触機会も失ってしまった。

 これでグリフ達に上位魔人が討たれたら、すべての苦労が水泡に帰す。


「……進路を間違えた?」


 ユージはおそるおそるマグナスに問いかけた。


「いやー、間違っちゃいないよ」


 しかし、意外にもマグナス声は陽気なものであった。致命的な失敗を犯した人間の態度ではない。

 真っ先に文句を言いそうなグストまで呑気に腰に手を当て、背を伸ばしリラックスしている。

 誰一人として焦っている様子は見受けられなかった。


「でも、森の奥のオークの防衛陣地を迂回して背後に回るはずじゃ……」

「はぁ? 誰がそんな危険なことするんだ?」

「誰がって、自分たちだよ」


 一瞬、間があり、男達の笑い声が響いた。なぜかグストも一緒に笑っている。

 笑っていないのは、ユージとマルチナだけ。


「敵の支配下地域で迂回ルートの開拓なんて、命がいくらあっても足りないぜ、ユージ」


 マグナスの態度や回答から導き出せる答えは、森の外に出たのは意図的だということ。

 ユージは意味不明なマグナスの言葉に混乱した。

 しかもグストまでマグナスの隣でニヤついている。

 反目しあっている二人がなぜ?

 ユージは訳が分からない。


「じゃあ、ボーナスは? セルリンのためにも金は必要じゃ?」

「そんな端金(はしたがね)どうでもいい。こっちにはもっといい金づるがあるんだからな」


「金づる……? 森の外に何かいい儲け話でもあるってこと?」


 マグナスがユージを見据えて、笑いをこぼす。


「相変わらず鈍いな。おまえのことだよ、ニコ」


 再び、周囲の男達がまた笑い声を上げた。

 一方、マルチナは苦い表情でマグナス達を睨んでいる。



「こんな甘ちゃんが冒険者気取りだからな。時代は変わったな」


 髭面のグストが鼻で笑い、マグナスに同意を求める。

 マグナスもグストに同意の笑いを返し、ユージに向き直った。


「ニコ、一つ教えてやろう。この世では強い物が弱い者を喰う。俺たちは強い、おまえは弱い。可哀想だがそういうことだ」

「なぜ……」


 ユージはこれまで親身になってくれたマグナスの豹変ぶりが理解できない。


「騙した……?」


 マグナスはにやりと笑い、ユージに歩み寄った。


「騙すって人聞(ひとぎき)きの悪い。獲物を捕まえるため罠を仕掛けただけだ」

「獲物……」


 ユージの呟きにマグナスが(こら)えきれず笑い声を洩らす。


「心配するな。ハンナちゃんは殺さないよ。俺たちが大切にかわいがってやる。なぁに飽きても捨てずにちゃんと売春宿に売り飛ばしてリサイクルしてやる」


 マグナスがマルチナをなめ回すような視線を絡ませる。


「まあ俺も鬼じゃねぇ。おまえは苦しまないように殺してやる」


 そう言いながら、マグナスは剣を抜いてユージに剣先を向けた。セルリンもマグナスに続き剣を抜く。

 ユージの背後にいたグストの配下の男達も剣を手にユージの背後を塞ぎ取り囲んだ。


「いつから……?」

「最初からに決まってんだろ」

「テルヴェ村出身というのも?」

「そんな村聞いたこともねぇ。町の入口でのやり取りを後ろから聞かせてもらったんでな」

「グストが因縁をふっかけてきたのも芝居ってこと?」

「あたりまえだろ。そんなテンプレみたいな展開あるわけないだろ。まあ、俺の弟分に手を出すな!って演技、迫真に迫っていたから騙されるのは仕方ないか?」


 マグナスは剣をグストに突きつけ、あのときと同じセリフを再現した。

 グストも調子を合わせて(おび)えた振りをする。

 そして二人で盛大に吹き出した。


「じゃあ、セルリンの娘のために金が必要というのも……」

「俺が娘を可愛がるような男に見えるか?」


 セルリンは丸めた紙屑をユージの足下に投げた。

 あのときセルリンが懐から出した落書きのような絵が描いてあった紙が丸めてあった。

 ユージは紙片を一瞥し、セルリンを睨む。


「じゃあ、マイキーの話しも……」

「誰だ、セルリン? マイキーって」

「おいおいマグナス、もう忘れたのかよ。半年前、遠征中に怪我したんでお前が魔族のいる山に置き去りにした小僧だよ」

「ああ、あの小僧か。ヤツもユージ並みに阿呆な小僧だったな」


 マグナスは大声で笑う。

 マイキーのことなどマグナスの頭の片隅にすら残ってはいなかった。


「治癒ポーションをくれたのも……」

「そもそも、治癒ポーションを買い占めたのは俺たちだ。ハンナちゃんにも遠征に一緒に来てもらわなくちゃならないから、恩を売るため一本くれてやったたけどな」


 ユージは騙されていたこと以上に、マグナスやセルリンを信じ込んでいた自分の愚かさへの悔しさがこみ上げ、唇を噛む。

 マルチナの言った、人間を信用しすぎない方がいいとの忠告が今さらながらに心に刺さった。

 いまさら何を言っても戯言に過ぎない、余計に(みじ)めになることは分かっている。

 ユージにマグナス達に言い返す言葉もなく、ただ、にらみ返すだけであった。



「悪く思うな。弱肉強食はこの世の常だ。ウサギを狩った狼に何の罪がある?」


 マグナスはさらにユージへと一歩踏み出す。

 両手で剣を頭上高く掲げると、そのままユージに振り下ろした。

 ユージはとっさに腰のグラディウスを抜き、マグナスの斬撃を受ける。

 しかし、マグナスの剣の勢いに押されて後方によろけ、ユージは地面に尻餅をついた。

 背後から、セルリンやグストの嘲笑が飛ぶ。


「もう一つ教えてやろう。グラディウスは盾とセットで使うんだ。相手の剣は盾で受けて、間合いを詰めて腹を刺すか、脚を(なで)で切る。教えるのが遅くなって悪かったな」


 笑みを浮かべマグナスは剣を構え直す。

 ユージは立ち上がりながら、かろうじてグラディウスをマグナスに向け構えを取る。

 しかし、今の斬撃で手が(しび)れ剣を握る手に力が入らない。


「片手持ちのグラディウスで両手持ちのロングソードを受け止めるなんて、達人でもできるわけなかろう」


 そう言いながらユージの構えるグラディウスを横薙(よこなぎ)ぎにした。

 マグナスの言う通り、重く長いロングソードの勢いを片手のグラディウスでは止められない。

 それどころかグラディウスはユージの手からもぎ取られ、飛ばされてしまった。


「まあ、この教訓は次の人生で生かすんだな」


 マグナスは武器を失ったユージに向かい、余裕の表情で間合いを詰めると、剣を振り上げた。


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