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1 ジーヴル・敵 1

 その老人、白髪でカイゼル髭。ユージよりも少しばかり背は低い。上品で人当たりも柔らか。そんな印象を与える好人物。


「これは我の侍従のジーヴルだ。分からぬことは何でも訊くがいい」

「そうか! 彼はスーパー執事でボディーガードとしても殺し屋としても超一流ってやつか? そうだよね。いきなり見ず知らずの異世界、それくらいの特典はないとな」


 しかし、ジーヴルはユージに向かってゆっくりと頭を振った。


「いえ、私ができるのは身の回りのお世話だけです。格闘などは全くできません」

「は?」

「ですから、あくまで侍従ですので」


「なら、何でも知ってる賢者的な感じの人? 分かんないことは何でも訊いていいんだろ」

「私が存じているのは、身の回りのお世話の方法くらいかと」

「え?」

「ですから、あくまで侍従ですので」


 ため息しか出ない。

 ようやくキターー! と思った特典が実はただのじいさんとは。


 落ち込むユージを見て、ジーヴルが慰めなのか俺の肩をたたいた。

「私が思いますに、ユージ殿はよき魔王になられるかと」

「えっ、もしかして予知能力保有者?」

「いえいえ、あくまで侍従……」


 もういい! っていうか、こんな年寄り、かえって足手まといだろ。


 黒い人影は憤慨する俺を無視して、ジーヴルの手を取った。

「頼んだぞ、ジーヴル。これがそちの最後の仕事ぞ」

「ははっ、盟約に誓って」


 黒い人影とジーヴルは沈黙のまましばし見つめ合っていた。

 これが最後の別れとなることは二人には分かっているのだろう。

 ユージは別れの場面に少しばかり心を動かされ、出掛かった文句を呑み込んだ。


「ああ、一つ言い忘れておった」


 ふと、黒い人影がユージに顔を向けた。


「はいはい、そーでしょ、そーでしょ。やっぱりあるんでしょ、すごいチートが。肝心なことを忘れちゃダメでしょ」


 ようやく待ちに待った瞬間!!

 ユージは身を乗り出した。


「そのリングを付けていれば、おまえが魔人であることは人間には分からん。つまり人間に見えるということだ。それに、おまえと永遠の盟約を誓った魔人も同じく人間からは見分けがつかん。……忘れるな」


 そう言い終わると、黒い人影は大きく咳き込んだ。


 見分けが付かないって、鬼ごっこ専用チートかよ……

 「俺が言っているのはそんなもんじゃないだよ。俺Tueeeな特殊能力とか、関羽・張飛・趙雲&孔明が最初から付いてくるビギナーモードとか、初回特典超レア・アイテムとか、四次元ポケット付のネコ型ロボットとか……etc. そういうチートだよ。異世界転生物には不可欠だろ」

「……」

「まさかもう終わりなわけないよな? 他に言っておくことがあるだろ?」


 懇願するユージに向け、少しの沈黙の後、黒い人影がつぶやく。


「さらばだ、ジーヴル」

「ははっ」

「そして、ユージ」

「お、おう」


 ユージは祈るような気持ちで黒い人影の言葉を待った。スーパーチートを待った。


「好きに生きよ……」


 そう言い終わると、黒い人影は静かに目を閉じ、再び動くことはなかった。


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