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17 辺境の町・新しい仲間 4

 男達はみな首から冒険者プレートを下げ革の胸当てをしている。

 しかし、腹はだらしなくたるんでいる。ろくな人種でないことは明らかだ。

 ユージは老農夫の言葉を思い出す。まさにゴロツキとの表現がぴったりだ。


 ユージたちは自分たちを睨む視線に気づかないかのように男たちを無視して通り過ぎようと足を速めた。


「おい、兄ちゃん、いい女連れているな」


 髭面の男が立ちはだかった。

 ユージは、心の中で舌打ちしつつ、聞こえないふりをして髭面の男をかわしながら通り過ぎようと立ち止まらずに進んだ。


「そんなに急いでどこ行くんだよ」


 髭面の男がしつこく声を掛ける。別の男が退路をふさぐように後ろに回り込んできた。

一方、マルチナは声の主に目線をやることもしない。はなから返事をする気もないらしい。


「急いでますので、失礼します」


 ユージは頭を下げてひげ面の男のわきを通り抜けようとした。


「おい、お前、剣士登録の冒険者だろ? 剣はどうした?」


 ユージは剣を持っていなかった。

 ベイズらが持っていた剣はマルチナが全て折ってしまったため、持ってこなかったのだ。


「魔族との戦いで折れてしまいまして、この町で新しい剣を買おうと思ってます。」

「剣を持たない剣士だと? 笑わせるぜ。俺が教育してやるからちょっと顔かせや」


「下種は引っ込んでなさい」


 今まで黙っていたマルチナの声に髭面の男が一瞬ひるんだ。

 しかし、こんな街中で騒ぎを起こせばほかの冒険者たちの注目を集めるのは間違いない。ここは穏便に済ますしかない。


「気に障ったことがあれば謝りますんで……」

「謝る? 謝るのはこいつらよ」


 ユージは何とかやり過ごそうとするが、マルチナは我慢がならないのか逆に挑発する始末。

 ここは無理にでも逃げるしかない。 ユージは強引に通り過ぎようとした。


 しかし、ひげ面の男は阻止すべく、ユージの肩に手を伸ばした。

 その瞬間、ピシっと音が響かせ、マルチナが男の手を払った。


「クズが気安く触れていいとでも思っているの?」

「この女!」


 男の顔には怒りの色が浮かんでいる。一方マルチナは全く悪びれない。争いは避けられそうにない状況だ。

 マルチナならそこらの冒険者が何人いようとも造作もない。

 しかし、男の大きな声を聞き、立ち止まってこちらをうかがう通行人も出始めた。ここでマルチナが男達と戦えば魔人であることがバレるかもしれない。

 それはなんとしても避けなければならない。



「おい、おい、何やってんだ」


 ユージの後ろから聞き憶えのある声が耳に届いた。ユージが振り返るとそこにいたのは先ほど酒場で別れたマグナスとセルリンだった。


「部外者は引っ込んでろ」


 髭面の男がマグナスを怒鳴りつけるが、マグナスはひるむ様子はない。


「そうはいかねー。そいつは俺の弟分みたいなもんだ。ちょっかい出すなら俺に一言あってからじゃねーとな」


 そう言いながら、マグナスはユージとひげ面の男の間に割り込み、自らの腰に差した剣の柄に手をかけた。髭面の男も自らの剣の柄に手を伸ばす。

どちらかが剣を抜いたら最後、切り合いは不可避だ。


 「どうする? このままだと、どちらかが血を流すことになるぞ。俺の予想では血を流すのはお前の方だがな」


 余裕の表情でマグナスは男をにらみつけた。

 野次馬が遠巻きに睨みあう両者を見つめる。皆、かたずを呑み、ヤジも飛ばない。


 「帰るぞっ」


 数秒のにらみ合いの末、引いたのは髭面の男だった。


「おまえマグナスとかいったな。格好つけているといつか痛い目にあうことになるぞ」


 髭面男の捨て台詞にマグナスは余裕の表情を変えなかった。


「いつかだと? それなら今すぐ、おれが痛い目にあわせてやろうか?」

「くっっ」


 髭面の男は唾を地面に吐き、踵を返すと取り巻きの三人を従え去っていった。



「ありがとうございます」


 髭面の男達が角を曲がりきるのを確認し、ユージはマグナスに頭を下げた。

 しかし、マルチナは相変わらず目を合わそうともしない。

 余計なお世話と言わんばかりの態度だった。


 マグナスはそんなマルチナにため息を一つ漏らし、ユージの方を向き直った。


「まあ、いろんな奴がいるからな。今度何かあったら俺の名前出してもらっていいからな。こう見えてもこの町じゃ少しは名前が通ってるからな」

「はい。ありがとうございます」


 ユージは頭を下げた。笑ってそれを受けたマグナスが、ユージを見て不意に呟く。


「ところで、ニコ、ヤツも言っていたが剣はどうしたんだ?」

「実は、この村に入る前に魔族の男に襲われて折ってしまったんです」


 ユージはとっさに嘘をついた。


「それなら、一刻も早く剣を新調したほうがいいな」


 たしかにマグナスの言う通りである。剣なしでは自分はもちろんマルチナを守ることだってできない。


「よし、俺が見繕ってやるよ」


 マグナスは親切そうにユージの肩をたたいた。


「ありがとうございます。何から何まで」

「遠慮するな。同郷の仲間だろ」


 マグナスは豪快に笑った。

 マルチナは体調が思わしくないと言ってひとり宿へ戻った。

 マグナスは明らかに落胆した様子だったが、気を取り直したようにユージとともに、装備屋へと向かった。  



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