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16 辺境の町・新しい仲間 3

 二人組の男はそれぞれ銅のプレートを首に提げ剣を腰に差している。

 冒険者の剣士である。

 二人とも歳は三十過ぎ、剣士らしいがっしりとした体格だ。

 ただ、顔は笑ってはいる。一応、友好的なムードを醸し出そうとはしているらしい。


 偽名がバレたか?

 ユージはおそるおそる口を開いた。


「何かご用でも?」 

「いやー、用ってほどのことじゃないんだけど、ちょっといいかな?」


 ユージの隣の椅子に座ろうと手を伸ばした男に対して、マルチナが冷たい視線を向けた。


下種(ゲス)が気安く話せる相手じゃないんですけど」


 男はたじろぎ、固まった。


「あ、あ、いえ、ゲ・ゲ・ゲストは大歓迎ですって、言ってます、彼女。実は最近東国からこっちに来たばかりで、まだ言葉遣いにちょっと変なところがあって……」


 ユージは目線でマルチナを制すると、作り笑いを浮かべて慌てて誤魔化した。


「東国って、ビザンティス帝国かい? なるほどね」


 男はおそるおそるユージの隣の椅子を引き寄せ、マルチナが何も言わないのを確認して腰掛けると話を続けた。


「で、ニコさん、テルヴェ村登録なんだって」

「なんでそれを?」

「実は俺たちゲートであんたらのすぐ後ろに並んでて……。そしたらテルヴェ村登録というじゃないか。実は俺もテルヴェ村登録でさ。こんな北の辺境の町で同郷のヤツに会うなんて滅多にないだろ? なんか嬉しくなっちゃってさ」


 男は笑いながらユージの肩を叩いた。


「おれは、マグナス、こっちは、相棒のセルリン。で、そちらの美人さんは?」


 マグナスはマルチナに目線を送った。

 しかし、マルチナは男達など存在していないかのように、名乗るどころか顔も上げない。黙々と固いパンを千切っては口に運んでいる。

 微妙な空気が流れそうになるところをユージが慌てて取り繕った。


「ああ、彼女はハンナ・ジャスミン・ウィルヘルムです」

「よろしく、ハンナちゃ……」

「ウィルヘルム」


 マグナスが言い終わらないうちにマルチナが冷たい声で訂正した。

 場が凍り付いた。


 マグナスは気まずさを誤魔化すように軽く咳払いをして、ユージに向き直った。


「やっぱりアレかい? あんたらも討伐連合軍に参加してたのかい?」

「ええ、そうです」

「じゃあ、結構稼いだろ?」

「まあ、それなりに……」

「なんてったって今回はスプリーム級まで出張ってたからな。あいつら噂以上だな。ヤツらが通った後には山のように魔族の死体が折り重なってるんだ。おかげで後ろをついて行くだけでなんの苦労もなく魔核をゲット。こんな楽な現場もそうはねーな」

「……そうですね」


 ユージは話を早く切り上げたかったが、マグナスの目的がまだ分からない以上、やむをえず話を合わせて相づちを打つ。


「そうは言っても、俺はヤル時にはヤルけどな。こう見えても周りからはエースって呼ばれてたんだぜ」


 マグナスは胸を張り、剣をさばく格好を見せる。

 そして、自慢話をしてみたり、失敗談を滑稽に語るなどした後、ようやく満足したのか立ち上がった。


「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。同郷同士、協力し合おうや」


 マグナスはユージに右手を差し出した。ユージもその手を握り、握手を交わす。


「そうですね。よろしくお願いします」

「邪魔したな」

「いえいえ、わざわざ声をかけていただいてありがとうございます。」

「またね、ハンナちゃん」


 明るく笑いながら店を出て行くマグナス達にマルチナは何も答えず、冷たい視線を送ったのみであった。



 店に残された二人は顔を見合わせた。

 単に挨拶に来ただけ。こんなことってあるのかとユージは不審に思う。

 何か他に狙いがあるのか? 本当に懐かしさからなのか?

 マルチナの意見を訊きたいと思い、話を振った。


「とりあえず、身分を偽っていることがバレてはいないみたいだね」

「どうかしら。信用しないに越したことないわね」


 この町には冒険者がたくさんいる。その中に本物のニコやハンナの知り合いがいてもおかしくない。誰がどこでどう(つな)がっているのか分からない。あまり目立つのはよくない。

 ユージとマルチナはその点は一致し、町の外に出た冒険者達が日暮れ時になり戻る前に必要な用事を済ませるべく、食事を切り上げて店を出ることにした。




 店を出ると、ユージ達はポーションを買いにショップへと向かった。

 市街の中心部には広場があり、そこには食料品や日用品の露店が並ぶ。広場には南北にそれぞれのゲートまで貫く大きな通りと広場から何本かの道が放射状に伸びていた。


 冒険者ギルドの建物は広場の南側大通りの脇にあった。ユージがギルドの建物を外から覗くと中には数人の冒険者がいるようであった。服装からして修道士らしき姿もある。

 しかし、修道士にマルチナへ回復魔導を依頼すれば間違いなく魔族とバレる。ここは少々高く付いてもポーションに頼るほか無かった。

 ユージは冒険者ギルドを通り過ぎて、その脇にあったショップに入った。



 ショップの店内には客はおらず、奥のカウンターに店番らしき女が退屈そうに座っていた。

 陳列棚は殆どが空であった。

 ユージとマルチナが呆然と棚をながめていると、店番の女が声をかけてきた。


「申し訳ありませんが、治癒ポーションはみんな売り切れまして……」

「みんな売り切れ?」

「もともと品薄で2本しか残ってなかったので。それも、明日から遠征があるとかで、ちょうど売れてしまったところで……」


 思わぬ店員の回答にユージは落胆の色が隠せない。

 しかし、マルチナにはポーションが必要である。落ち込んではいられない。


「じゃあ、今度は入荷する?」

「そーですね、一週間くらいはかかると思いますが」

「一週間……」


 黙り込むユージを見て、店員は少し考えた末、一つの棚に手を伸ばした。


「披露回復ポーションは何本かありますので、それで当座をしのいでいただくしか。ただ効果は限定的で一時的に体調を改善させるだけです。怪我が劇的に良くなるものでもないですが、何もないよりましかと」


 店員はポーションの小瓶を二本ほど取りユージに手渡した。

 ユージ達は店員に礼を言って銀貨四枚を支払い、ポーションを手にショップを出た。

 

 治癒ポーションを手に入れてマルチナを治癒し、多くの人間がたむろする町を出て新たな配下を探しに行く、そんな計画がいきなり暗礁に乗り上げてしまった。

 ユージは計画の練り直しが必要であった。ユージは重い足を引きずるように宿へと向かった。


 道すがら、すれ違う男は必ずマルチナを一瞥し、すれ違った後に振り返る。

 マルチナは美人だけに目立つことこの上ない。

 なるべく人目に付かないようにと足を速めた。


 二人は広場を過ぎ、宿に続く細道に入った。


 道の真ん中にガラの悪そうな四人組が立っていた。

 その様子から、明らかにユージたちを待ち構えているかのようであった。


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