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15 辺境の町・新しい仲間 2

 翌日、ユージが目を覚ましたときには、すでに正午を回っていた。

 硬いベッドとはいえ久しぶりの屋内での宿泊。熟睡できたせいか気分は悪くない。


 ユージがマルチナのベッドに目を向けると、既にマルチナはすでに目を覚ましており、ベッドに腰掛けてユージを見ていた。

 ローブは脱いでベッド脇に畳んであり、身につけているのは薄手のワンピース型のスカートのみ。

 部屋の小さな明かり取りの窓から陽の光がマルチナを照らし、体のシルエットがうっすらと浮かんでいる。それにワンピースの胸元も大きく開き、膝上丈のスカートから足がのび、白い肌がまぶしい。

 はっきり言って、目のやり場に困った。


「おはよう。ユージ」

「おはよう、マルチナ(さん)。具合はどう?」

「まあまあね。まだ熱はあるけど、少し楽になったかな。ありがとね」


 マルチナが頭を下げた。

 下を向いたマルチナの服の胸元が下がりその奥に胸の谷間が覗く。

 ユージは慌てて目をそらした。

 それを見てマルチナがニヤっと笑った。


 ……絶対、わざとだ。

 ユージは遊ばれてることにむっとしたが、マルチナらしさが戻ってきたと思い、気持ちは少し楽になった。

 そう感じた途端、ユージは空腹に襲われる。


「とりあえず、食事にでも行こうか。もう丸三日、まともなもの食べてないよ」

「そういや、そうね。もうユージを食べることはできないしね」


 一瞬、ドキッとする。

 ユージにとって、全く笑えない冗談であった。


「ところで今はユージではなくニコ・ヴェルナーってことになっているから、人前でユージって呼ぶのはまずいな」

「そっか。じゃあ、苗字でヴェルナー?」

「それも堅苦しいかな、ニコさん、でいいんじゃない?」

「オッケー、ニコ!」


 やっぱり呼び捨て……。なんか前もこんなやり取りあったなぁ。

 ユージは記憶をたぐった。


「じゃあ、私のことはハンナね」

「ああ、わかったよ、ハンナ」


 あれ? 本名のマルチナではなく、別の名前だと呼び捨てのハードルが下がるな。

 ちょっとした発見だ、ユージは思った。



 二人は宿を出ると広場を抜け、一軒の酒場に入った。

 昼間は食堂として営業しているようで、食事をしている先客がいた。

 二人は店の奥の隅のテーブルに着くと、運ばれてきた肉にかじりつき固いパンを水で胃に流し込んだ。

 久しぶりの食事、あまりの空腹にゆっくり味わう余裕など無かった。もっとも、味付けといっても塩を振ってある程度のものであったが。


 空腹が落ち着いてくると、いろいろ考えなければいけないことが頭に渦巻く。

 魔王を継いだ以上、魔族の国を興さなくてはならない。


「魔族の国を興すって何から始めればいいんだろ?」

「なんならこの町の人間、今からみんな殺しちゃう? そしたらユージの物になるよ」

「いやいや、殺しちゃダメでしょ」

「えーー」


 マルチナが不満そうな表情を見せた。

 ただ、その表情からは冗談なのか本気なのかイマイチつかめない。


 実際のところ、マルチナの力を持ってすれば怪我のハンデがあってもこんな町を潰すことは造作もない。

 しかし、最も懸念すべきはスプリーム級の冒険者パーティーがまだ近くにいるかもしれないということ。

 そんな状況で魔族の国の建国宣言でもしたら、彼らの逆襲に遭って一瞬で消滅である。

 マルチナがそんな単純なことに気づかないわけはない。

 要するに自分が王様なんだから、自分で考えろってことなのか……


 国を大きくする方法……。

 ユージは召喚前に自室に引き籠もってやりこんだ戦国シミュレーションゲームを思い出す。

 弱小領主でゲームを始めた場合に第一にやるべきことはなにか? そう、まずは武将集めだ。

 内政政策も重要だが、そもそも今のユージは領地を持たない。それなら流浪の領主となって出来る限り多くの配下を集めるのみだ。


 ユージはマルチナに今後の方針を説明した。

 いきなりマルチナは両手で顔を覆った。


 「えー、私という者がありながら、もう新しい配下? 非道(ひど)い……」

 「い、い、いや、そういうわけじゃなくて」


 慌てるユージにマルチナは何もなかったかのように真顔に戻る。


 「冗談よ。王様なんだから配下は何人いても多すぎってことはないわ。ただ……」

 「ただ?」

 「めぼしいヤツはみんな先代に従って、ことごとく討ち死にしてる。それなりのを見つけるのは簡単じゃないってこと」

 

 魔王と盟約を結べば命を賭けて戦う。先代魔王が死んでいる以上、盟約を誓った上位魔人達が生き残ってはいないことは自明の理である。

 つまり、今の時代は有力な上位魔人は死に絶え、残っているは無名の新人か実力イマイチなベテランのみ。


 --配下候補の枯渇状態--


 まるでゲーム末期時代の『三国志』だな……。

 ゲームなら相手の国を滅ぼせば武将が付いてくるが、この世界では天敵である人間を配下とするわけにはいかない。

 いったい、どうやって配下を増やせばいいのか。

 ユージは頭を抱えた。 


 「ねえ、知り合いに誰かいい人いない?」

 「私の? 私より綺麗な子っていうのは無理よ」

 「見た目じゃなくて、強さ基準でお願い」

 「あーそっちの話ね」


 彼女候補にお友達紹介してっていう話と勘違いしてる……

 全く、真面目なんだか不真面目なんだか掴みかねた。 


 「まー、それ基準にしても私より下のヤツばかりよ」

 「この際、贅沢は言ってられないよ」

 「んー、いないこともないけど、あんまり気乗りしないかなぁー」


 マルチナは言葉を濁した。

 そんなこと言わないでとマルチナと押し問答を続けつつ、ユージが次の一歩への思考を巡らせたときだった。

 

「ニコ・ヴェルナーさんかい?」


 突然の自分の名を呼ぶ声に、ユージは驚き後ろを振り向いた。


 そこには見知らぬ二人組の剣士が立っていた。


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