03
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「お前等、見張りはどうした!?」
人の半身程ある幅をした大剣を、背負った男・ソフィア=グレガンドは目の前に居る二人を見て驚いていた。それは、紛れも無く見張りを指示したリベルとグランだからだ。
「それが……ですね、ソフィア隊長」と、茶色い皮で出来た身を隠すための武具を羽織っている、リベルは、か細い声を発した。
普段ならば、フードは外し目を見て話すのが作法。なのだが、リベルはその事すら忘れ、焦っていた様子で頭を下げていた。ソフィア自身も張り詰めた緊張感を覚える。が、ソフィアも隊を任されている以上は、他の隊に不安感を募らせるわけにはいかなかった。
平常心を装いながら、冷めた声音を発する。
「なんだよ。勿体ぶらず、端的に言え。何の為に、ルイン村の民を避難させてると思ってるんだ」
リベルとグランは、自分が忠義を尽くす王国・クレプスクロの騎士団・エピメレイアのソフィア隊に所属している。そして、紅く染まった毛並みが特有の哺乳類動物・アウダースに跨ったソフィアは、一旦降りて二人と目線を合わせた。
彼は、クレプスクロの中でも数少ない実力の持ち主である。逞しい体つきでありながらも、素早い動き。奇抜な構えから繰り出される斬撃は、予測がままならない。
視界の外から刃が襲ってくる恐怖は、エピメレイアでは有名な話。
隻眼と言うハンデを負いながらも、鬼童の異名を称されていた。
ソフィアが跨がるアウダースは、民から贈呈されたものであり、エピメレイアでも五本の指にはいるぐらい全ての能力等が平均を超えている。
まず、従来のアウダースの体長が頭のさきまでで二メートル程だが、ソフィアの跨るそれは三メートルをこす。加えて、胴を支える四本の脚は大きい体を支える為に鍛え上げられ、筋骨が隆々としているのだ。
その為、走る速度も他を引き付けない程の速さを誇る。
──ソフィアは民からも信頼される人望厚き人物なのだ。
ただ単に武力や知識があるからではない。何より、民に慕われる理由として、彼自身が元は平民だからである。ゆえに、ソフィアの率いる隊は貴族特有の英才教育を受けた者は居ない。代わりに、孤児や片親等、訳アリの平民達が多かった。
リベルもグランもその内の一人。だからこそ、ソフィアの元で働けている事を誇りに思っている。きっと、グランも同じ気持ちだろう。と、リベルが前に言っていたのを思い出す。
そんな彼が、ソフィアの指示に背くとはソフィア自身が信じる事が出来はしない。
ソフィアが、リベルの返答を待ちながら白銀の重厚な鎧を軋ませ周りに指で指示を出していた。すると、リベルは承諾の合図。左掌に右の拳を付けて軽く頭を下げて口を開く。
「すいません。ヘルウルフの一個小隊の群れは……恐らく全滅しました」
「お前等が──いいや、その湿気た様子だと違うようだな。……何があった?」
ソフィアが、リベルやグランから見てとったものは恐れだった。長きに渡り、それこそ勇者が現れる数年も前から激戦の中へと身を投じてきたのだ。表情を伺えば、ある程度の事は分かる自信があった。
口を開こうとしたグランに対して「いや、待て。あっちで話を聞く」と。人気のない家屋の裏を指さした。
「──で、だ。何があったんだ?」
改めてソフィアは、二人に訪ねる。
「俺達が視認しただけで、四人。彼等がヘルウルフの群れを駆逐したのです」
「たった、四人でか?」
驚かずにはいられなかった。勇者率いる大所帯は、突如として現れた魔王を遥かに凌ぐ力を持った魔族と相見える為に北上している。確かにエピメレイアにも数多くの手練が居ることも知っては居るが、たった四人で群れを全滅させた武勇伝は聞いたことがなかった。
リベルとグランが呼吸を合わせたかのように頷いた。が、何故、二人の表情が晴れないのか、理解に苦しんだ。この世界・ベンディシオンで勢力争いをしているのは陰に生きる者と、陽に生きる者のみ。だが、ソフィアはこの時、嫌な予感が脳裏を過ぎった。
(──誰が、それだけだと決めつけた……? 俺達が勝手に思っているだけかもしれないだろうが。もっと、視野を広げて考えるんだ)
「もしかして、新しい勢力と言いたいのか?」
端的にソフィアが尋ねると、二人は膝をつき謝罪をした。
「「すいません!!」」
「急に謝るな。ゆっくりでいいから、話せ。お前達の忠実さは俺が一番分かってる」
神妙な趣きで、二人を宥めるとリベルは言った。
「あれは、半魔のようなものでした。そして力も……俺達じゃ到底敵わないと離れていながらも実感しました」
「ふむ、だがまだ分からないであろう。話し合ってみなくてわな。都合がいい事にこの村を利用出来るじゃないか」
仲間に出来る確信は、無かったが仲間にできれば即戦力になるだろう。ソフィアが決意をすると、リベルとグランは反対をしたが、理由を話すと唾を飲み込んだ。
わざと煙を炊き、人の存在を感じさせれば半魔と言えど姿を現すはず。本来の任務とは異なる感じにはなったが、ソフィアは半魔と呼ばれる者と会う覚悟をした。
「今日、歴史が大きく動くぞ。リベル、グラン、念のため装備を整えとけ」




