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01

 幸人達は、苦難を強いられる事も無く、ヤンと歩の力によって狼達の猛攻を弾き飛ばした。半数以上は逃げたが、それでも幸人が目の当たりにしていた光景は言葉で表しようがないぐらいに物凄いものだったのには代わりがない。


 ミシェルは「この他にも、私達を見ている者が居るみたい、です」と、震え声で言っていた。

 ──が、狼達より先に遠方へ逃げたとも言っており、結果、恐れ慄いたのだろうと幸人は確信する。


 だが、それの話も四時間程、遡るものだ。四人は別段、見た事も無い景色に感極まる事も無く、幸人の場合は気疲れして、が正解だが黙々と足を運びつづけた。

 中には、六本足で紫色をした体長三十センチ程度のトカゲのような生き物。七色の羽を持った猪のような生き物等がいた気もしたが、幸人はそれを流し目で見送る程度。

 それが功を奏してか、陽が完璧に落ちる前に四人は小さい村の前に来ていた。


「──ッてもよ? ここ、本当に人が居るのか?」


 幸人が少人数で住んでるであろう、寂れた村を見て感じた第一印象は、縄文時代か弥生時代の文明。過去にタイムスリップした感覚に自然と視野は広がった。


「まるっきり、人の気配がねぇーんだけど」


 人が居た痕跡はあるが、あるだけでしかない。肝心の人が見当たらないのは不可思議。

 歩は、膝を抱えて座ると焚き火の燃え滓を木の枝で突っつきながら口を開く。


「んー。でも、火を起こしていた形迹もあるし。滅んだとかはなさそうだよにぃー」

「アユムの言う通りだな。人が消えるには、この村の温度が温かい。つい最近まで人が居たと考えて間違いはないだろう」


 歩が燃え滓をつついて遊んでいると、ミシェルが歩の肩を遠慮気味に数回、指先で叩いた。肩を竦めている辺り、やはり人と接するのが慣れていないようではある。


「んー? なしたんー?」と、歩は笑を浮かべて首をかしげるとミシェルは俯いて焚き火の燃え滓を指さした。


「──あの……。だ、誰も居ないなら……その、火種は大切にしないと……です」

「そうなんだッ。教えてくれてありがとうね? ミシェルちゃんは、物知りだねっ!」


 ミシェルは、横に首を振った。


「物知りじゃない、です。私は、何も知らないのです。誰とも接し──」


 内股気味に、ひっそりと佇むミシェルの哀愁は、見ていて抱き締めたくなるほどの儚さを漂わせている。雪のように白い肌も合わさり、吹けば消えてしまいそうな小さき少女に、幸人は芸術的な魅力を感じているのだと気が付いた。


「ねぇ、ちょっと? さっきから何、ミシェルちゃんを、いやらしい目で見てるのよ──ロリコン」


 下卑たものを見る目で、歩は言葉を尖らせる。


「べべ別に、イヤラシイとかないしな!? ふふざけんなよ! ロリコンじゃねぇし!? 少女に魅力なんか感じねぇから!」

「──ぅう……」

「……え?」


俯くミシェルに、幸人の時は止まる。


「私、魅力……無いですよ、ね。こんな体質だから──ずっと一人、です……」


 今にも泣き出しそうな雰囲気に、幸人は凍りつく。今まで女性を泣かしたことがない、もとい女性と密接な関係を持ったことがない、幸人にとってミシェルの今にも崩れ落ちそうな様子に変な緊張感を呼び覚ます。

 跳ね上がる心拍数、滲み出る汗、焦り。気が付いた時、幸人は無我夢中でミシェルを宥めていた。


「いやっ、そーいう訳じゃないから! ミシェルは、可愛いし!? 頭撫でたいし、頰っぺつまみたいし、抱き締めたくなる! ほど儚……あ」

「やっぱり、ロリコンじゃんよ。きんッッッもっ」

「……グハッ……。頼む、ミシェルからも何か言っ──て、何で顔赤くしてんだよ! 照れる場所じゃなくてフォローをだな……!!」

「私……可愛いだなんて、そんな……えへへ」


 幸人が、怒りではなく恥じらいで耳と頬を赤く染めつつミシェルに言葉を向ける中で、大きい笑い声が響いた。


「ハッハハッ! 実に愉快だな。平和で結構結構! ともあれ、誰も居ないなら好都合。俺達はここを拠点と出来るわけだが──、一応、周りを見て歩きたいな」


 歩は、立ち上がると背伸びをして、伸び伸びとスッキリした表情で言った。


「そうだねえ。ストレス発散もすんだことだし、ヤンさんに賛成っ」

「おい! ストレス発散に俺を使うなよ!」


 色々なやり取りがあったが、『歩とヤン』は村の様子を探り、人が居なければ食料を頂く。もしいた場合は、言葉が通じるかを確認した上で、交渉。

『幸人とミシェル』は、人がいた場合、村で一晩越せない場合や、人がいなかった時の事を考え、村の外で火を起こす材料等を探す任務が与えられた。


「まあ、日が暮れたら出来ることも出来なくなる。早いところ探そうか」

「はい、です。夜になれば、夜行性の捕食動物も活発になり、ます。火を起こして、存在を知らしめないと……」


 森とは違い、広がる平野は黄昏時と言う事もあり、茜色に染まり靡く。少し涼しい風に髪を揺らしながら幸人は、ミシェルの言った通り乾燥した植物を探していた。


 これから、長くなる闇を過ごすために。


「でも、ミシェルは何で詳しいんだ?」

「それは、その……私は、森に棄てられたから、です……」

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