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02

 

「なぜそんな事が分かる?」


 幸人は、ミシェルの言葉を聞いた後に今一度周りを見るが何の変哲もないのを確認。不穏な香りはおろか、風は涼しく、鳥を含めた動物達の鳴き声が静まり返り事だってないのだ。


「ぼ、ボクは、その……。カメレオンと虎の遺伝子を……だから、多分……」


 青い瞳は、いまだ幸人を写すことはない。単に人見知りなのか、それとも自分の言葉に自信が無い表れなのか。その事について、幸人は自分なりに模索をして、本の数秒足らずで解に至り、短く頷いた。


「そうか、教えてくれてありがとう。ところでミシェル、一ついいかな」


 ミシェルは、人見知りではあるが自信が無い訳では無いだろう。と、言うのも彼女はここに居る誰よりも早く能力を開花させていた。

 実際、創造主も「本能に忠実となればいい」と、言っていた。つまり、ミシェルは人見知りであるがゆえに、身を隠す術や辺りを警戒する術を自然と発揮をしていたのだろう。


 口を開かず、小さく頷くミシェルの頭にゆっくり手を置いた。

 

「ありがとう。俺達は、何が何でも死ぬわけにはいかない。逃げ道はあるか?」


 後は、自分達が死ねば、元いた世界で幸人として生きているホムンクルスは死に絶え、近い内に世界自体も滅びるとの事だ。


「えと──その、あっち、に。でも、向こうも足が、早い。逃げれるか……な」


 ミシェルが、小刻みに震えてるのが伝わる。一生懸命、恐怖を押し殺そうと努力をしているのかもしれない。


「大丈夫だよ。俺達は強いんだ」


 根拠はなかったし、これが一番懸命な言葉とは思えない。冷静になり分かったことは、自分にも言い聞かせていた、という事。


「うん、ありがとう、ございます。ユキトにーちゃん」

「いいってことよ。みんな、準備はいいか?」


 柔軟体操をしている歩、静かに瞑想をしているヤン。問いかけると、二人は相槌を打ち立ち上がった。彼等からは、何故だか不安を感じない。それどころか、幸人自身を鼓舞するような、勇気を与えるような、落ち着き様だ。自然と二人の雰囲気は、幸人の早まる心音を宥める。


「逃げる準備ではない。戦う準備だよ、ユキト」


 ヤンの言葉に、ユキトは固まる。思考が追いつかず、口だけが少し開いたまま過ぎる数秒の内に、ヤンは立ち上がった。


 黒い目は、冗談をみせず、覚悟を色濃く宿しているようだ。一重もあわさり、その覚悟を乗せた眼光は鋭さを増したまま木々の隙間を穿つ。


「しょーゆ事だあね、ユキト。まあ、防御タンクは、私に任せてよね」


 柔軟体操を終えた歩でさえ、臆することなく日常会話の一端みたいに言う。更には、寝そべり、勢いを付けると、さながら海老の様に体を跳ねらせて立ち上がる余裕を見せた。勇ましいとは正にこの事だろう。


 過ぎ去る二つの風に、前髪が靡く。


防御タンクッて……。お前な、ゲームみたいにゆうなよ」


 背を向け、仁王立ちをする歩を見上げながらユキトは言った。

 根拠が分からなかったのだ。彼等二人からは自信以外の何も感じない。ヤンの鍛え上げられ隆起した肉体ならば、あるいは対抗のしようもあるだろう。

 しかし、タンク──即ち、一番ダメージを受ける役職を担当すると言った歩は、程よく鍛えられ整った体型。ゆえに、手足も細く、体のラインは女性が羨むものだろう。


「んー? だってゲームじゃん? 私たちが今いるのってさ。言わば侵略者でしょ? 敵がウジャウジャ湧いてさ。死んだら何もかもがゲームオーバー。それに、考えが甘いんじゃないかな、ユキトは」

「な、何がだよ! 甘いのはそっちだろ。勝てるか分からない相手に挑むのはどーかしてる!!」


 ユキトの声に、ミシェルは肩を竦めた。一方、歩はヤレヤレと言わんばかりに、首を横に数回振るう。続けざまに、ため息を吐いたのか肩が撫でおろされた。馬鹿にされた感じがして、ユキトは苛立ちを覚え、ギッと反論は出来ずも背中を睨みつける。


「私達が視野に入れなきゃいけない敵は、なにも魔物だけじゃない。人も居るんだよ? 人を殺さなきゃいけない。真っ当な感情のまま挑むと壊れちゃうよ」

「そ、そんな事!!」

「君は、何もわかっちゃいないよ。人が人を殺すのなんか躊躇っちゃ駄目なんだ。守るものがあるのなら、刃を肉に突き刺さなきゃいけない。──まあ、安心しなよ、私が守ってあげるから」


 ──刹那、憎悪を形にしたかのような、おどろおどろしく、おぞましい鳴き声が響いた。


「グルゥオオメゥオン」


 喉を震わせて、腹の底から出したであろう声は、音波により木々をざわめかせる。この時、歩やヤンが戦闘を覚悟した理由が幸人にも分かった。


 逃げ場は確かにあったのかもしれない、しかし、それはただ単に、その場所だけが不自然に見逃されていただけ。即ち、誘き寄せられていたのだ。あのまま逃げていれば、周りの把握もできないまま、暗闇の中で魔物に食い散らかされていたであろう。

 分かった瞬間、今まで体験もしたことがない程の鳥肌が立ち、冷や汗が背中を濡らした。


「グルァアアメルァァア」


 熊と羊の鳴き声を混ぜたような声は、四方から均等に響く。辺りを見渡すが、距離の把握なんか出来たものじゃない。だが、唯一分かるのは時折みえる無数の赤い瞳は間違いなく、コチラを狙ってる絶望的な状況のみ。


「──来る」


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