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01

「此処が、奴の言っていた異世界・ベンディシオン……なのか」


 驚く間も無く、それこそ瞬きをするのと時、同じくして幸人は、この地に足を踏み入れていた。創造主が言うには、この世界で体を構成し直しているらしいが、詳細は不明。それこそ、人智を超越した力──だとかそこら辺の次元だろう。小さい動作ではあるが、手を握り開きしても支障はない。体には後遺症が無いのを確認し視線を動かした。


「──これで、四人目か」


 坊主頭の男性は、目が合うと少年──織田幸人おだゆきとを目の前にし、図太い声で口にした。

 物言いから推測をし、他にも来た人間がいるのだろうと瞳だけを動かし目視をする。

 此処は、幸人達を囲うように木々が生い茂っており、開けた空間は円形状に数十メートルほどのようだ。

 加えて、大きい石に座っている女性、木の影から顔を覗かせる女性──計三人を視認。


「俺は織田幸人と言います。一体、どれだけの人間が運び込まれてくるのでしょうか」



 不安混じりに、男性に話をかけると顎鬚を撫で付けながら男性は言った。


「そればかりは分からない。俺は、リ=ヤン。出身は中国・四川省しせんしょう。よろしくなユキト」


 幸人は、出身を聞いて納得をした。彼、ヤンが着ている服が少林寺のテレビでよく見掛ける服装だったからだ。


「んー、どーだろう。正確には、運び込まれた……では無く、生き残った……が正解じゃにゃいかなあ? アイツなら、人が死ぬとか気にしなさそうだし。条件を達成出来なかった奴らの事まで考えてないんじゃない?」と、目を離した隙に、石の上で逆立ちをするアクロバティックな女性は、明るく凛々しい声で言った。


 体育の時間だったのか、青いジャージを着ている彼女は褐色肌で尚且つショートカット。幸人が感じた、第一印象は活発女子。


 女性は器用に、逆立ちをしたまま半回転して着地をする。拍手喝采をして欲しいのか、両手を天に翳して満面の笑みを浮かべた後に歩き、近づいてきた。


「と、冗談はさて置き、私の名前は御坂あゆむ。出身は日本・北海道だよん! なまら、仲良くしてねっ!」


 目鼻立ちが良く、歯並びもいい。控えめに言っても美人である、歩の笑顔には凄まじい破壊力が備わっていた。

 彼女いない歴、年齢の幸人は静かにヤンへと視線を向ける。


「こらこらー! 何、逃げてんだよーこの野郎ー」


 おちゃらけた声を出し、あゆむは背後から幸人に抱き着き顔を締め付けた。人見知りもすることなく、男性とか見境無いスキンシップに幸人の肌は赤みを増す。

 柔らかな感触が後頭部から伝わり、心拍数が格段に跳ね上がっていく中で幸人は、苦し紛れに口を開いた。


「ちょ! や、やめろ! 男に何やってんだよ!」


 言葉の直後、力が弱まり幸人はどうにかこうにか魅惑の鳥籠から抜け出した。学ランの服装を正しながらキョトンとした表情を浮かべる歩を瞳に写す。


「やだなあ! 男にはやらないよーそんな事ッ」

「は? 意味がわからないんだが」

「いや、だから、ね? 私は君を男として見てないのッ! 簡単でしょ?」

「グハッ」


 初めて言われた言葉が、心臓を食い破る。血反吐が出る勢いの精神的ダメージに手は地をついた。


「グハッて……。地面とにらめっこしてるし……。あれ? ユキト君? どーしたの」

「う、うるさい……。ヤンさんも、なに笑ってるんですか!」

「ふふ、ああ、すまないすまない。中々賑やかでいいなーと、な?」


 目尻から零れた涙を拭いながらヤンは言った。幸人は、聞き流しつつ体制を元に戻して地面にすわった。


 歩は膝を抱えて、心配そうに見つめる。が、彼女の表情には一切の罪悪感がない。即ち、先程の言葉は冗談や嫌味では無く本音だろう。泣きそうになる目に力を込めて、気を紛らわす様に話題をすり替えた。


「それより、“生き残った”っていった根拠を教えてくれ」


 すると、歩は立ち上がり真っ青に染まる天を人差し指でさす。


「私達は、もう純粋な人間じゃないんだよね? つまり、失敗した者だって居てもおかしくないでしょ?」


 裏表がないような、ハッキリとした声音は現実を叩きつけ、幸人は納得せざるを得なかった。


 ──そう、今ここに居る四人は人でありながらも人であらざるものと化している。


 動物や、虫の遺伝子を組み込み、己が力として活用できる為に改造された人間。マッドサイエンティストや悪魔によってではなく、創造主によって。


 幸人は、天を仰ぎ見つつ出来事を思い返し「君達の大切な者の運命を変えるのは簡単です。わかりやすく言えば、死ぬ運命を変えたり、死なない運命を変えたり……ですね。幸人君、君には守りたい人が──居ますか?」


 神の言葉とは思えない、残酷な通告。そして、分かりきっていたからこそ、呼ばれたのだと察しがついていた。幸人には、母の手一つで育ててくれた大切な人が居る。彼女を殺すか、他世界と争うか、答えは決まりきっていた事だった。覆す事の出来ない言葉に頷く他、道はなかったのだ。

 神の存在を疑わなかったのは、目の前で遠く離れてるであろう刑務所に居る罪人、一人を吐血死させた所を見せつけられたゆえの事。


 ここに居る皆が皆、あの創造主に脅された人間なのだろう。掛け替えのない者達を守る為に、条件を飲んだ者。そして、遺伝子組み換えを失敗した者は死んだと言う事だ。


「ま、でもコレで弟が助かるなら私は、神の傀儡かいらいでも全然構わないんだけどねッ」


 頭で腕を組み、平然と言ってのける歩。だが、表情は先程までの明るさに雲がかかっているように幸人の瞳には写っていた。


 創造主の傀儡となる事は、つまり“戦争”を意味している。


「あ、あのあのっ」


 返す言葉も無く、包まれた息もしにくい静寂をか細い音が裂いた。何処からとも無く、幼さを隠しきれない声が近くで聞こえている。消去法で考え、木に隠れていた少女だと直ぐに気が付くが周りを見渡しても見当たらない。


「何処に居るんだ?」

「わ、私は……ここです」


 何も無かった場所に異なる色が生まれ始めた。それは、徐々に色を塗り潰していく塗り絵と似ていて、ゆっくりとその空間に形が構成されてゆく。


 全てを可視化するのには、五分程かかっただろうか。目の前には、体育座りをする少女がこじんまりとしていた。


「わ、私は……そ、そのミシェル=ベレットと、言います……。あのあの、それで、です」


 ミシェルと名乗る少女は、ピンク色のワンピースを着ており、覗かす肌は透明度のある白さをしていた。

 腰ほどまでに伸びた真っ白な髪。影が落ちるほどの長い睫毛の下からは、宝石のように美しい青い瞳が潤んでいる。さながら西洋の人形の如く美麗でありながらも、何処と無く儚い雰囲気を醸し出していた。


(──アルビノ体質なんだろうな……)


 対話をするのが慣れていないのか、声には震えが生じており、視線は自分の足の指を写しているのか俯いたままだ。

 幸人が対応に困っていると、歩は慣れているのか、同じ目線になるふうにしゃがみ笑顔で口を開いた。


「んー? どーしたのかな? ミシェルちゃん。怖がらないで良いから、ゆっくり話そーねっ」


コミュニケーションに長けているであろう歩は、躊躇いもなく頭を優しく撫でる。ミシェルは、歩の行動により落ち着きを取り戻したのか、木々を指さして口を開いた。


「あの、その、何かに囲まれてる……です」


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