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「君達には、世界を終わらせ、世界を救う使命を授けます
目の前の女性は言った。
興味もなければ、感情がこもってもいない、平坦で単調な声音で女性は言った。だが、一つ、不可解な点を上げるならば、口が全く動いてはいない。更には、十字架に張り付けられ、鎖で拘束された彼女からは命を感じる事も無い。そこに見えているのに、正確にはそこには居ない感覚。
それは、まるで葬式で亡くなった人を見た時のものに非常に似ていた。なのに何故、声が、美しく透き通った声が聞こえたのかと言えば、脳に直接語りかけてくる感覚。
少年は、女性の声を聞き漏らす事なく脳に伝達しながらも辺りを見渡した。
彼岸花が、足元が見えない程に咲き誇っている。風も何も感じない真っ青な空間に於いて、不可思議に揺れる花からは真っ白い玉が揺蕩いながら天へと昇っていた。無い語彙力から、少年が導き出した言葉は“神秘的”。
しかし、すぐさまに少年は女性が言った言葉を思い返し、身の毛がよだつのを全身で感じる。
少年は一度、生唾を飲み込むと恐る恐る口を開いた。
「今、何て言ったんですか?」
白いワンピースにも似た装飾に身を包んだ、金髪の女性に語りかける。夢でも見ているのだろうか、と、思い返しても見たが、少年が覚えている限り時刻は昼を回った所だ。火曜日の今日、十七歳である少年は、学校にいる時間帯。自分が来ている服を瞳に写しても、寝巻きではなく黒い学ランだ。
つまり、今の状況は夢ではなく、現実に限りなく近い。だが、信じたくもない気持ちが複雑に絡み合う。
「ですから、この世界を救う為に、他世界を滅ぼしてください」