L.Wの肖像、あるいは何らかの何かの袋小路
・・‥‥………‥‥・*・・‥‥………‥‥・
ごきげんよう。
私はイェルツィア。イェルツィア・イーレーナ・ヴィーヴンテ。
『猛き風』ヴィーヴンテの一族、その末裔、10年前病で世を去るまで族長であった、『呪われし』ルベド・ルエーシュ・ヴィーヴンテのただ一人遺した子。
庭のばらが散り、何もかもが渇く夏が訪れ、駆け足で秋が訪れ、その恵みをもたらす前に北風が全てを枯れさせる、そのころに私は16回目の生まれ月を迎えます。
16回目の生まれ月。
私がお母様の体に宿ったその時から決められていた、私が許嫁である、あのお方の元へゆく日。
名前だけは知っているのです。いいえ、名前しか知らないのです。
私が年を重ねるたびに海を越えて送られてくる種々の贈り物、その中に混じる貝や貴石の彫物の横顔。それさえも本当の肖像なのか信じられずにおります。
そして――熱のこもった手紙。あのお方からの手紙はいつも署名で終わります。
《リクサンディル・リューシウス・ヴィーヴンテ》。
美しい筆跡は、私よりもそのお方が年を重ねていることをありありと示しております。
『呪われし』ルベド・ルエーシュ・ヴィーヴンテ、私の父は、若かりし頃やむを得ず行った殺生で、「決して世継ぎの男子を成すことが出来ない、たとえ男子が生まれたとしても幼いうちに死ぬ」という呪いをかけられた――と、そう私を育てた乳母のジェシカや、館の使用人たちがひそかに噂していたのを聞いたことがあります。
だからか、と、その噂を初めて聞いた時の私は、何もかも合点がいったのです。
墓碑銘のない、飾り気もない質素な、小さな墓に。
普段立ち入ることのない館の空き部屋に所狭しと置かれた、私のものではない――明らかに男の子の遊ぶための種々のおもちゃに。
夏の夕暮れ、山から吹きおろす風が牧草地を吹き抜けた刹那、人形のような顔の母の目にわずかに生気が宿り、知らない誰かの名「 」を呼ぶときのその普段見ることのない優しげな顔に。
私は……わたしは……そう、代わりなのですね。
いえ。代わりですらない。
わたしは「 」の代わりにはなれないのですから。
うるせーーーー~~~~~!!!!!!←何故かこれが予測変換される