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世界と世界は世界へ続く  作者: *石野中 新流*
そして、『あなた』の世界へ
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四  戦闘協議

 優子は、順調に休暇を過ごしていた。休暇を貰ってはや五日。本当に阿井からの連絡はなかった。嫌いな学校も、何故だか行く気になれる。しかし、相変わらず学校に友達はいなかったので、専らの遊び相手は、同じく休みを貰った川島だったが。


 遊びに付き合ってくれる川島に言わせれば『調度暇を持て余していただけの事』なのだが、それでも優子は川島に感謝していた。私の仕事を理解してくれた上で、私の愚痴を聞いてくれる唯一の()()。親友との何気ない会話が、私にとっての救なのだろう。

 


 優子は今日も学校にいた。窓際の最後尾が優子の席だ。一限目が終わり、つかの間の休み時間だった。


 今日は月曜日だから二限目は――社会、か。優子は思った。一番マシな授業だ。まだ興味が持てる。しかし、一限目の英語は本当にくだらない授業だった。受ける価値も無い程に無意味。


 優子はいつもと変わりなく、ブツブツ文句を口ずさみながら休み時間を過ごしていた。しかしその時、自分の携帯電話が突然鳴ったので驚いた――と、言うより、そもそもこの時間帯に着信がある事自体に驚いていた。友達のいない私の携帯電話に着信が入るのは、阿井からの指示が来る時だけだったから。


 唐突の着信に教室中の会話が中断され、クラス全員の視線が優子に注がれた。


 うっ…マズいなぁ。優子はかつて無い焦燥感に見舞われた。これまで決して目立たないように生きて来た優子にとって、これ程まで他者から注目されたのは生まれて初めての経験だった。


「だ、誰かしら~私に電話なんて。おほほほ、ちょっと失礼~」


 無意識的に誤魔化しの言葉を吐いて、優子はそそくさとその場を後にする。その余りにも不自然な振る舞いに、周囲からの視線が痛い程突き刺さる。要するに、全く誤魔化せていない。


「全く、誰からよ、こんな時間に」廊下に出た優子は恨めしそうに携帯電話の着信を確認する。電話の主は案の定、阿井からだった。


 しかし、それが逆に優子を冷静に対処させる。あの阿井が、前言を撤回してまで私に連絡して来たのだ。つまりそれは、余程の事態が起こったに違いなかった。


「どうしたの阿井。一体何があったの?」


『優子か。良かった、まだ無事だったか』電話の相手は、意外にも川島だった。


「え? 川島さん?」優子は返答に戸惑った。「…お、驚いた…もしかして、阿井に何かあったの? それに()()って」


『宗一郎様は会議中で電話出来ねぇだけだ。だから代わりに俺が掛けてる――って、んな事より! よく聞け優子。単刀直入に言うぞ。一刻も早く学校(そこ)から逃げろ。Kがお前を狙ってやがる!』


 その声は酷く焦っていた。それ程までに危うい事態なのだと優子は理解する。確かに今は、何も武装していないほぼ無防備。Kに襲われたら一たまりもなかった。


『いいか、兎に角校舎から離れろ。今から十分以内に必ず迎えに行く。詳しい事はその後だ。それまで無事でいろ。いいか、絶対にだ』そう言って、川島は電話を切った。

 

 電話を終えて教室に戻った優子は、そそくさと帰り支度を始める。しかしその時、前の席に座っていた女子が話し掛けて来た。


「あの、朝比奈さん。ちょっと、良いかな?」


 優子は、意外な呼び掛けに少し戸惑った。 


 たしか――彼女は早見風香。以前に名前は教えてもらったが、それっきり会話はした事が無かった。


「何かしら? ええっと、早見さん?」


「あ、名前」と風香が目を輝かせて言った。「覚えててくれたんだぁ。良かった」


「ええっと、それで、何か用事でもあるのかしら?」


「あ、そうだった。あの…さっきの事なんだけど」


「?」優子は首を傾げた。


「あんまり気にしないでね?ほ、ほら……朝比奈さんって普段電話とかしないでしょ? だからみんな気になっただけで」


 ああ、そんな事か。優子は思った。危機的状況のせいで、そんな平和な事はすっかり記憶から消えていた。


「別に気にしてないわ。ちょっと恥ずかしかっただけよ。気遣ってくれたのね? ウフフ、ありがと」


 優子は笑顔でそう言った。愛想笑いではなく、心からの笑顔で。自分でもそれが、何とも意外だった。


「ねぇ、早見さん」


「は、はい?」


「私、ちょっと用事で今からすぐに家に帰らなくちゃいけなくなったの。だから、もし良かったら、その事先生に伝えといて貰えないかしら?」


「さっきの電話? 何かあったの?」風香は少し不安になった。


「これから、あるのよ。家庭の事情。詮索は無し、ね?」と優子は嘘をついた。


 優子は、風香が頷いたのを確認し、そして荷物を入れ終わった鞄を提げて席を立つ。長居は無用。早くこの場から立ち去らねば、このくだらない平和が無くなってしまうかもしれない。


「あ、朝比奈さん! その…また明日ね」


 振り向いた優子は、笑顔で軽く手を降った。明日があれば、ね。そう呟いた優子に、笑顔は無かった。

 


「なんだか、呆気なく学校から抜け出せたわね」


 優子は車の助手席に座りながら言った。見た目は普通の車だったが、対弾性を重視した堅牢な造りで、装甲車並の防御力を誇る。


「とんだ期待ハズレね」


「馬鹿言うな!」と川島は怒鳴ったが、直後に溜息をついた。「…ったく人の気も知らんでよぉ」


「で、現状はどうなってるの?」


「ああ。昨夜――日曜だな、お前の学校にKが侵入しやがった。俺も奴が映ってた監視カメラの映像を見たんで確かだ。宗一郎様も確認したから間違いねぇ」


「んん? 何しに来たのかしら。爆弾でも仕掛けてたのかな?」


「アホぬかせ。爆弾だったら今頃お陀仏だろうが。奴は手ぶらだった。ついでに言うなら、監視カメラにも気付いててな――あの野郎、ファックポーズなんぞかましやがったッ!」


「は、はは…ホントに何しに来たのよ」と優子は苦笑した。


「おそらくは下見兼、宣戦布告。だから一刻を争う――と思ったんだが、今回は宛が外れたかもなぁ?」


 川島も苦笑する。全くKの意図が掴めない。しかし、単に脅しだとは考えにくい。


「だったら良いんだけど」


「いや、たまたま今日じゃなかっだけかもしれん。明日の可能性も十二分にある訳だ」


「で、結局どうするの?」と優子。「まさか、このまま逃げるの?」


「それこそ()()()だ。宗一郎様はお前にKの抹殺を要求している。今から、本部へ装備を揃えに行く。必要な物は何でも言え。大概のエモノは揃うはずだ」


「今度こそとっちめてやるわッ!」


 絶対に逃がさない。優子は思った。確実に、私の手で息の根を止めてあげる、と。



 優子の戦闘準備は深夜まで続いていた。本部一階の会議室を借りて、川島と共に対策を立てていく。装備を揃え、それを基に、戦術、戦略なども緻密に練る。いつ襲撃するのか?相手の装備は?狙撃か?それとも――可能性はいくらでもある。


 最終的に、優子がこの場で要求した装備は、クラスⅣのボディーアーマー、FN P90、フランキ SPAS(スパス)15、H&K G36C、そして、バレット(ペイロード)XM109(ライフル)だった。さらに、常備しているファイブセブンに軍用ナイフ、優子が【切り札】と称したスーパーレッドホーク アラスカン。まさに完全武装だ。


 ただ、問題もあった。どうやってバレないように持ち運ぶか?だ。一番の問題はXM109。ゆうに一メートルを超える、この“化け物”をどうするのかと、優子と川島は決めかねていた。


「どう考えても――いらんだろ?」と川島が言った。「でかくて邪魔だし、何より重てぇ」


「重たいのは別に問題じゃ無いわ」と優子は反論した。「寧ろ一番の問題は、私と三○センチくらいしか変わらないこの大きさね。どうやっても目立ちすぎるわ」


「だから、始めから持って行かなきゃ良いんじゃねぇか。そうすりゃ他はどうにかなる――」


「嫌よ。この銃は絶対に外せない――だからお願いよ川島さんッ!どうすればいいか一緒に考えてぇ」と優子は川島に拝むように頼んだ。「お願いッ! …ね?」


「チッ」と川島は舌打ちをして、その後溜息を吐いて席を立った。


「川島さん…」


「ったく、考えるのは飯の後だ。いい加減、腹が減ってちゃ何も浮かばんぜ」


「あ、ありがとう、川島さんッ!」


「だがな優子」と川島は優子を指差しで制しながら言う。「お前はもう寝ろ!もし明日襲撃されたらどうするつもりなんだ? 昨日は徹夜だったから見逃してください、とでも言うつもりか、あぁん?」 


「で、でも…」


「でももクソもねぇ。俺はお前の我が儘、腐るほど聞いてやってるんだ。お前も、俺の我が儘を一回くらい聞いたって罰ゃ当たらんだろ。ほら行った行った」


「わ、わかったわよ!寝れば良いんでしょ!寝れば」


 優子は川島の気迫に圧されて、渋々睡眠を取ることにした。


「仮眠室使わせて貰うけど――寝てる間に変な事したら、承知しないわよ?」


「アホか。俺は弁当買いに行くんだよ。とっとと寝てこい」


 そう言って、川島と優子は会議室を後にした。優子は仮眠室へ、川島は弁当を買いに外へ。黙々と二人は廊下を歩く。そして突き当たりの丁字路での別れ際、優子は川島を呼び止めた。


「川島さん!あッ、あの…ありがと、ね」と少し照れ臭そうに優子は言った。


「ハッ!そう思うんなら、しっかり寝てくれよ」


 そう言って川島は、優子に背を向けたまま右手を上げた。

 

 さて、どうすっかなぁ。と川島は弁当を食べながら思った。先程、優子が要求した装備が届いた。その中で一番目立つのが、やはり、バレットXM109。現物は想像以上に重く、そして大きかった。

 

 

全長1168.4mm

重量15.10kg

初速853m/s

有効射程2000m

装弾数5発

25×59Bmm NATO弾使用

 

 

 まさに、化け物と呼ぶに相応しい銃だ。こんなもん、どうすりゃバレずに持って行けんだよ。


 川島は頭を悩ませた。分解(ばら)して持って行くというのも一つの手段だが、それでは敵の強襲に即座に対応できない。一度戦闘に突入してしまったら、おそらく組み立てる時間などは無い。だから出来得る限り、即応可能な状態で持ち運ぶのが望ましい。


 ケースに入れていく、というのはどうだろう?H&K MP5コッファーのようにブリーフケースとはいかないが、それより大型な――そう、例えばギターケースなどの楽器ケースなら、或は収納出来るかもしれない。それなら少々目立っても、怪しまれる事はまず無いだろう。が、問題は約一二○センチの銃を収納出来るだけの大きさのケースが存在するかどうかだ。


 川島は自分のノートパソコンで調べてみる事にした。取り敢えず大手楽器メーカーの公式ホームページを開いてみる。そこで少し調べてすぐ解った。ギターの大きさは平均して一○○センチ程度。大きさは許容範囲内。しかし強度がまるで足りない。


 川島は少し悩んだ後、ならば作れば良い、という答えを出した。簡単な、しかし確実な答えだ。そう思い立ったが否や、川島は書類の裏に簡単な図面を引き始める。簡単な、と言ってもかなり精密な立体図面だったが。


「うむ、悪くない」と川島は自画自賛する。「XM109だけじゃなく、P90、スパス15、G36Cも、全部機能的に収納出来るのがコイツのミソだな!だが、しかし――」


 そう、しかしだ。時間は大丈夫なのだろうか? 素材は対弾性を高め、尚且つ軽量にする為、新素材のカーボンナノチューブファイバーを起用している。一平方センチあたり四五○トンの力に耐える現在最強の素材だ。さらにマルエージング鋼製の装甲板も使っている。それを時間内に製作する事は可能なのだろうか?


 川島は時計を見た。


 午前一時十分


 残された時間は約七時間、と言ったところだろうか?


「ま、悩んでても仕方ねぇか。兎に角、先ずは宗一郎様に相談しねぇと」


 川島は阿井に相談する為、図面を持って会議室を後にした。目指すは阿井のいる室長室。川島の夜はこれからだった。


 優子が目を醒ますと、そこには見慣れぬ巨大な楽器ケースと、それを大事そうに抱えて眠っている川島がいた。


 優子は、カプセルホテルのような作りの仮眠ベッドからゆっくり降りた。それに気付いた川島が目を醒ます。


「あ…ごめん」と優子。「お、起こし…ちゃった?」


「んぁぁん? …あぁ、いやぁ…大丈夫だ――」


 そう言いながら、川島は大欠伸をした。


「お前が起きるのを待ってら、いつの間にか寝ちまったみてぇだな…今何時だ?」


「え? …ええっと」


 優子は壁に埋め込まれたデジタル時計を見た。


「大体、七時半ね。それがどうかしたの?」


「そうか…良かった良かったぁ。ほれ()()()の説明をせにゃならんだろ?」


 そう言って、川島は楽器ケースをポンと叩いた。


「俺も、作動確認しちゃいねえからな。作動確認兼、使用説明だ」


 優子が頷くと、川島は作動確認を兼ねた説明に入った。


「コイツの外面は全て防弾、耐爆措置が施されている。計算上、RPGの直撃までなら防げる……はずだ。ま、言わば楯だな。それから中身の取り出し方法だが、普通に開く以外に、ボタン操作で、好きな武器だけを即座に取り出すことが出来る――はずだ」


 川島は、実演する為にグリップ部にあるボタンを押した。


 小さな作動音を立てて、ケースの表面の一部が開き、P90が競り上がっている。


「一のボタンがP90、二のボタンがスパス15、三のボタンがG36Cに、それぞれ対応している」


「で、ペイロードライフル(XM109)は?」と優子が聞いた。


「ああ、そいつがこのシールドケースのミソだ。そいつを使うには――」


 川島の説明は、その後三十分にも及び、危うく優子は遅刻しそうになった。

 空は雲一つない快晴。透き通るような冬の朝だった。


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