第6章 大団円?
「おっかしいだなあ……こんなはずじゃあ無かったんになあ……?」
ワリリンは、ぴしりとした恰好をさせられ、リス相手に愚痴っていた。
領主の屋敷では、姫の帰還と共に祝賀会が催されていた。
湖畔に賑わいが戻り、姫もとい怪物に追われて減っていた魚も戻ってきた。
漁業も順調に回復してきている。
「おいらぁ、漁師になりたかったんだで? 何で姫さんの婿さんにならにゃいけんくなってんのかあなあ?? 望みを叶えてくれっはずじゃなかったん??」
助け出された姫は、攫われた時こそ妙齢の美人だったが、数年が過ぎ、湖中生活によって体型も崩れ、ぷよぷよぽっちゃりした年増女性に変貌していた。
鏡を見て卒倒したというくらいだから、本人が一番ショックだっただろう。
だが、跡継ぎを産めない歳ではない。そして婿は用意されている。
そう――領主とワリリンの、最初の約束によって。
ワリリンは、漁師になりたいと、告げた。
領主は、それを、領主になりたいと、聞き違えたのだ。
そのため、姫を婿にとり、ワリリンは次期領主になることに、決定したという訳だ。
「あ~あ……」
ワリリンは深い溜息をついた。
「何でこうなっちまったんかなぁ」
そして窓から遠く湖を見やる。今日も波が穏やかに揺れているらしい。
爽やかな朝の風が、彼の部屋にすがすがしい湖の香りを運んできた。
しかし、彼の気はますます滅入ってゆく。
「……おいらぁ、漁師んなりたかったんに……何でこうなっちまったんかあなぁ……」
「何ぐずぐず言ってんのよぉ。次期領主様。ルーザ姫がお待ちかねじゃない」
いきなり後ろでリスの甲高い声が上がる。ワリリンは黒髪をかきあげ、だるそうに言った。
「だけん、おいらぁ山奥の故郷に戻りていだぁ。姫さんにゃあ悪りいっけんどぉ、ティムぅ、おいらぁ嫁さんなんてもらいたかねいよぉ。漁師になれねんなら帰りてえよぉ」
「しょーがないじゃないのぉ、そういう約束しちゃったんだから」
(まぁ、あなたの気持ちは分かるけどもね)
ティムはぴしゃりと言うが、泣きそうなワリリンの顔に、流石に同情の色を隠しきれない。
が、彼女はぷるぷる首を振って、くりくりした瞳を精一杯つりあげた。
「とにかく! もう泣き言言うのはよして、その惨めったらしい顔を何とかしてらっしゃい! そんな顔、折角の結婚式にするもんじゃなくってよ!」
きーきーわめいてリスが出て行ってしまうと、もう一度ワリリンは深い、深ぁい溜息をつき、遣る瀬無い瞳を窓に漂わせた。
(せめて、姫さんが、あの時のティムくれえ、若くて綺麗だったらなあ……)
こうしてワリリンの、漁師になる夢は打ち砕かれ、彼は次期領主となったのであった。
完