第4章 塔の探索
ワリリンとティムは、船を皆に預けて、塔へ向かった。
おろしたての鎧は、難破した際、湖に沈んでしまっていた。だが、剣は無事だ。
「故郷じゃんな、狼とか熊とか相手にしてったもんでよお」
少し剣の腕には自信があるワリリンだった。
煉瓦造りの塔に近づくと、見上げないと分からないところに、窓があるのが見えた。
「あっこに姫さん囚われているんだあなあ?」
ワリリンは塔に踏み込んだ。きっと階段などがあるに違いない。
しかし、塔の中はがらんとして、ところどころに蜘蛛の巣が張っていた。
全体的に埃っぽく、巨大化した虫たちの生息地になっているようだった。
でかい虫たちと数体剣を交え、ワリリンは塔の外に逃げ出した。
上階に行く手立ては何も無かった。手がかりすら得られなかった。
「わたしに任せて」
するするとティムが窓までかけ登る。
ティムは、やがて何処で見付けたのか、丈夫そうなロープを垂らしてくれた。
ロープにつかまり、壁を蹴りながら登り進む。あの重たい鎧を着ていなかったのは正解だった。
ワリリンが上階に到着すると、リスは呟いた。
「多分、魔術師さんは、飛行能力があるわね。だから、この窓から出入りできるんでしょう」
しかし、上階もそこそこ埃っぽかった。人の手が入った形跡はあれど、何年も前のことのようだ。
「魔術師のおっさん、出てこいっしゃ! 姫さん返してくんろやあ!」
ばん、ばんと勢いよく扉を開け、ワリリンは剣を手に突き進む。
埃がその度に舞いあがり、リスをくしゃみで困らせた。
とうとう奥の間にたどり着き、書斎と思しきその重い扉を開く。
奥に、豪奢な椅子がしつらえられており、誰かが座っているようだった。
微かに白髪頭が見える。
「魔術師のおっさん、覚悟しいや!」
ワリリンが駆け寄ると、魔術師の頭が……ぽろりと、落ちた。
既に遺体となり、白骨化していたのだ。
ティムは慌てるワリリンの肩からデスクに飛び降り、遺体の手が示していた魔術書を眺める。
そして、遺体から指輪を抜き取った。ぽろっと指の骨がデスクに落ちる。
「湖に戻りましょう、ワリリン」
「え?」
「あの怪物。あれは、変身した姫様よ。助けを求めて船に接近していたんだわ。早く元の姿に返してあげないと……」
でも、とティムは言葉を濁した。
あの領主のところに、他にも魔術を使える者がいればいいのだけど……。
(最悪、わたしがやらなくちゃいけないってこと?)
あまり、リスの姿以外を人に見られたくないのだが、ティムは思い切って、指輪を頬袋にしまった。